幻の地震

249 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/04 01:04 
中学の時、一週間の修学旅行から帰った翌日のこと、その日は休みだった
ので一日中家でごろごろしていた。夕食を終えて部屋のベッドに寝ころがって
いると、突然まわりががたがた揺れ出した。こんな大きな地震を体験するのは
初めてだったので、パニくって階段を駆け下りると、家族は平気な顔でテレビを
見てる。地震なんて感じなかったと言う。そんなはずはない、吊り下げた
蛍光灯が天井にぶつかるのをこの目で見た、すごい揺れだったと
言い張っても相手にされない。旅行の疲れやろ、はやく寝ろと言われた。
首をかしげながら部屋に戻ると、あれだけ揺れていたのに物が動いた様子は
無い。しばらくテレビをつけていたが、速報も入らなかった。

あくる日友達の何人かに訊ねてみたが、誰も地震なんて知らないと言う。
やはり自分の勘違いだったのだろうかと思った。 

その日の放課後、僕は担任の車に乗って近くの総合病院へ向かった。
病気のため修学旅行に参加できなかった同じクラスの生徒を見舞うためだ。
僕は学級委員だったので、クラスを代表してみんなで買った土産を渡した。
担任はしばらくすると、知り合いか誰かがここの病院に入院しているらしく、
ちょっと挨拶に行ってくると言って僕を残して出て行った。
同級生は調子が悪いらしく、こちらが話しかけてもろくに返事もしない。
もともと東京からの転校生で友達も少ないようだったし、同じクラスになって
からはほとんど入院していたので、あまり親しくはなかった。そのうち彼は
ベッドにもたれて寝てしまったようだったが、僕は勝手に帰るわけにも
いかないのでぼんやりと外の景色を眺めていた。
そのとき、突然彼が「ゆうべ地震があっただろう」と訊ねた。 

「ええとたしか、九時ごろ……」不意をつかれてしどろもどろになりながら
僕がそう答えると、やっぱり、と言いながらすごい力で僕の腕をつかんで
引き寄せ、秘密を打ち明けるような小さい声で、
「すごい揺れだった。遠くから地面が鳴り出して、いつまでも響いてた。
先生や看護婦は地震なんか無かったって言い張ってたけど、
僕はだまされなかった。この次はもっと大きいのが来るよ。
そしたらもうごまかせない。このあたりも危ない。みんな死ぬよ」
それだけ言うとベッドに体を沈め、今度は本当に眠ってしまったようだった。
その年の冬に彼は亡くなり、それからしばらくして阪神大震災が起きた。 

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