路地

412 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/09/15 23:52
 三年前の夏の話です。
ある週末の夜、私は知人から麻雀の誘いを受けました。
翌日何も予定がなかっでので、気軽に応じました。
知人宅は私鉄沿線にあり、駅から少し離れた所にありました。
私も数回しか訪れたことはなかったのですが、何とかなるだろうと、その時は思いました。
そこは世田谷です。通りを隔てて町名が変わるような場所でした。
また深夜というともあり、辺りは見慣れぬ風景になっています。
携帯で知人に連絡を取り、番地を聞いたのですが、案の定迷ってしまいました。
狭い路地に入り込み、歩くこと数分、目の前に公団住宅らしき建物
が現れました。その入り口らしき場所に、住宅表示板が見えました。
私がその板の前に立ち、現在地を確認していると、何気に視線が
それました。視界の端に黒い人影が………。


それは階段の踊り場から、地面を覗き込んでいます。
自分のいる所から百メートルほど離れていました。
(どうやら男らしい)
しばらく目が離せずいると、なぜか背中に悪寒が走りました。
ここにいてはいけない。そう感じた瞬間、それはこちらに顔を向けました。
私が駆け出すと、背後に足音が反響しました。
ぺたぺたという音に思わず振り返ると、それはかなりのスピードで階段を降りてきます。
(追われている)本能的に感じました。
それを巻こうとして、細い路地を右往左往走りましたが、足音は近づく一方です。そして、全くペースが乱れないのです。
逃げているという実感は、強い恐怖となり、まるで押しつぶされそうでした。
やっと街灯のある通りに出ると、突然女性の悲鳴がしました。
出くわした女性が、私の尋常でない様子に驚いたのかもしれません。
奇妙な話ですが、私はなぜか解放感を覚えました。
何者かの悪意を振り切ったという感じです。


コンビニ近くのバス停のベンチに腰掛け、動悸が治まるまで休みました。
気持ちが落ち着いて、知人に電話しました。
駅まで迎えに行くという話になり、私は電話を切らずに歩き出しました。
道のりを誘導してもらいながら、きた道を引き返していると、急に通話が途切れました。
辺りは人通りもない住宅地で、静寂に包まれています。
すぐに背後から、ぺたぺたという足音が聞こえてきました。

 結局、その夜は知人宅へ行かずじまいでした。
たまたますぐにタクシーを拾うことができたので、迷わず帰ることにしました。
いきなり運転手さんに「運がよかったですね」と声をかけられました。
あまり深い意味はなさそうでしたが、その一言は胸に響きました。 

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