瞬いている光

401 : 本当にあった怖い名無し : 2011/10/23(日) 22:03:45.87 ID:YlpcQWxI0
涸沢カールの紅葉は見事なもので、一度ピークを見てしまうと何度も通うことに。 

この年の十月の三連休は天候が崩れることが分かっていましたが、 
紅葉のピークをねらって涸沢にテントを張りました。 
初日の昼ごろ横尾から本谷橋の先で急激に気温が下がり、夜には暴風雨。 
明けて翌日は荒天の吹雪。紅蓮のナナカマドの葉が雪に埋もれて紅葉もお終いに。 
多くがこの日カールを後にしたようですが、気圧計は上昇傾向にあったので粘ることに。 

最終日の未明、静かになったのでテントから這い出して見ると、白出のコルの上に 
巨大な満月が。快晴で月の光が雪に反射し、カール全体が眩しく浮き上がって見えます。 
うきうきしながら写真を撮ったり、隣のテントの男性に聞かれて露出値を計ったりしな 
がら、吊尾根を眺めていると、前穂の北尾根上に明るい星が瞬いているのが見えました。 
惑星かと思いましたが、稜線ぎりぎりを上下しながら微妙に動いているように見えます。 
328を向けてみると、チカチカ点滅しているようですが、暗くてよく分かりません。 
月が沈むにつれて、件の光は空に上昇していき、薄明とともに見えなくなりました。 

最終日は朝からほぼ快晴で、ヘリが飛びまわる中、屏風の耳から涸沢カールを眺めると、 
青空、白雪、紅葉、黄葉、緑葉と理想的な五段紅葉で、一期一会の写真が撮れました。 

実はこの時、二つの台風崩れの低気圧が、ちょうど二つ玉低気圧のように合体し、 
爆弾低気圧になって、全国的に大荒れになっていたのでした。この日は遭難が相次ぎ、 
前穂、奥穂、白馬、御岳、小蓮華、大雪山系旭岳で計九人の方が亡くなられています。 

前穂で遭難された二名の方は、北尾根のバリエーションを縦走中に悪天で吹雪のため 
ルートを失いビバーク。一名行動不能となり、翌朝ヘリで救助されましたが、病院で 
凍死が確認されたとの事です。 

あの光は、もしかすると、と思うのです。此方が浮かれている時に、実はすぐ隣で悲劇が 
起こっていたと思うと、何とも申し訳ないような、やりきれない気持になったのでした。 
二○○六年十月七日から三日間の事です。

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