抜け道

311 :本当にあった怖い名無し:2011/07/23(土) 21:52:23.99 ID:5QuAF3E/0
俺のもだいぶ昔の話、もう15年ほど前になる。 
その頃は20代で、適当に就職もして結婚前提の彼女もいた。まあ、今のかみさんだが。 
その彼女の住んでいた隣の市までの往復に、ある山道を使ってたんだ。途中途中が細くてカーブが多く、 
事故も耐えない細道だったが、周辺の公道が混みやすかったから、抜け道として便利だった。 

その山道、地元の人間ならピンと来ると思うが、箱根を模したあだなが付けられていたんだ。 
理由は道の両脇にラブホテルが立ち並んでいたこと。箱根の温泉街ってカーブの多い場所に温泉旅館が 
並んでるだろ。あれをもじったんだと思う。本物の箱根みたいに賑やかではなくて、ひたすら暗くて気味の悪い 
ところだったけど。 

彼女とのデートから帰る途中だった、ある夏の夜。たしか盆過ぎだったと思う。20時ごろにその道に差しかかったときに、 
珍しく前走していた車を見つけたんだ。俺みたいに抜け道として使うヤツは少なからずいたけど、この時間に街灯もない、 
すれ違いも困難なここに入ってくる人間は珍しい。周辺のラブホが宿泊時間に入る22時前後ならいるんだろうけど。 
黒のク○ウンでいかにも金持ちっぽい車種。もらい事故で大損害になるのは嫌だったんで、車間はだいぶ開けていた。 
けど、時速20キロぐらいで走ってくれるんで、すぐに追いついちまうんだ。しょうがないから、気楽に構えて、ずっとケツに 
つけることにした。渋滞の国道に戻るよりは、それでもだいぶ早かったからさ。 

そのうちにサーチライトのせいで向こうの車内の人影が見えるようになってきた。運転席と助手席に1人ずつ。頭の位置 
からして男と女だと思われた。 
「ああ、じゃあラブホの客かな」 
なんて思いながら、どのホテルに入るのかデバガメ根性で想像していたら、妙なことに、その2人の後ろ、後部座席でも 
小さな頭が見え隠れしている。 
「子供連れか、家族で出かけた帰りかなんかかな」 
と、これまた余計な推測をしている最中に、ク○ウンは右に伸びるさらに細い上り坂に入ったんだ。 

坂の入り口には、”ホテル○○”の看板。 
「…ホテルの客だよな?」 
と思いながらも、子供連れでラブホに行くものかと疑問でもあった。だから、ちょっと興味を惹かれて、車を停めて、 
斜面を上っていくク○ウンを見ていたんだ。そしたら、突然、後部座席の子ども?が立ち上がって、リアウィンドウを 
かなりの勢いで叩く仕草をしたんだよ。白い顔の部分ははっきりわかったけど、表情は見られなかった。 

そのまま上りきって視界から消えたク○ウンの軌跡を辿りながら、どういうリアクションをしていいかわからなかったね。 
「まさかホテルに連れ込んで幼児虐待?」 
とか 
「この先はホテルでとっつきなんじゃなくて、もっと山奥まで行けるんじゃないか?子どもをそこに捨ててこようとしてる 
んじゃないか?」 
とか、いろいろ考えた。 
で、追っかけてみることにした。 

坂は急で幅もさらに狭い。しかも30mはある。カーブで見通しが利かなかったんで、本当にホテルがあるのかさえ、 
着いてみるまで不確かだった。 

到着すると、道はホテルの駐車場の入り口に直結していた。他に脇道はありそうにない。とりあえず山中に遺棄の 
線は消えたなと安心して入り口に入ると、かなり広い駐車場スペースの真ん中で、バック駐車しようとしているク○ウン 
を見つけた。それが完了するのを待ちながら、左手の空き駐車スペースを見たら、駐車場から部屋まで直通してる 
タイプのホテルだとわかった。 
「子どもを連れ込もうとしても、誰にも見咎められないじゃないか」 
なんてことを思いながら、駐車を完了したク○ウンにゆっくりと近づいた。個々の駐車スペースの上半分を覆う厚手の幕 
が邪魔でよく見えない。でも、男と女が車から降りた足は見えた。 

そこからはどうしようもなくなって、近場に停車して窓を開け、音を聞くに留まった。男と女は無言らしく、声は一言も 
聞こえない。子どもの声や足音を聞きわけようとしたが、それも無理だった。重いドアを開ける軋み音が響いて、 
それきり何も聞こえなくなった。 

一応、降りて、怪しげながらク○ウンの周りを探ってはみたんだ。けど何も見つからず。車内にも人影はなし。 
「もういいか」 
と、腑に落ちないながらも自分を納得させて車に戻った。 

そのまま発進して、元の坂道に戻る。下りの坂道っていうのは、まあわかるだろうけど、上りより道が細く感じる。 
もともと1台がやっと通れる幅しかない路面を慎重に進むと、両脇の樹木が迫り出してくるような恐怖感を覚えたよ。 
特にカーブの曲がり口は細く、枝葉で車体をこすらないように気を使う。3つほどあった最後のカーブに差しかかったとき、 
俺の頭には車に対する警戒心しかなかった。 

カーブを抜けた瞬間、運転席側の路肩に、突然、5歳ぐらいの子供の姿が映りこんだんだ。 
人間って、本当にビックリしたときは、頭を強打されたようなショックを受けるんだな。脳と視界が激しく揺れて、とっさに 
急ブレーキを踏んだよ。感覚的には子供を轢く軌道を辿ったような気がした。車体への衝撃は、自分が動揺していた 
せいで認識できなかったのかもしれないと思った。 

かなりの時間、躊躇っていた気がする。だけど確かめずには帰れないだろ。だから、わざと、 
「だいじょうぶか?」 
って大声で聞きながら車を降りたんだ。ああいうときの気分はかなわんね。死体を見たくはなかったけど、死体になってること 
しか想像できないんだ。 

だけど坂道には誰もいなかった。車の下に入り込んだのか、脇の山中に飛び込んだのか、と気を揉んで探したけど、見つける 
ことはできなかった。 
念のためにホテルに届けて、警察に通報してもらうことも考えたけど、思い返してみても、どうしても轢いている確証が出てこない。 
そりゃあ動揺していたけど、人間をはねたなら、絶対に気づくと思わないか? 

結局、そのまま帰るのも後味が悪かったんで、ホテルには事情を説明しておいた。もし後日に死体が出てくるようなことがあったら 
連絡すると言ってもらって帰ったよ。 

家に帰り着いて、彼女に事の次第を電話した。 
「そんな時間に子供がホテル街にいるのがおかしい」 
と断言してもらって、やっと納得できたよ。あいつは、あの○○ホテル近辺で、ずっと彷徨っている何かだったのかもしれない。 

余談だが、俺の友人に電話線を引く業者がいる。ファッションホテルの回線増設工事を引き受けたことも何度かあったそうだ。 
そいつが仕事をしたホテルの従業員から聞いた話。 
若いカップルの女が妊娠して、責任を取れない2人はこっそり堕胎しようとした。場末のホテルで強引な切迫流産を促して、 
堕胎には成功したが、女のほうも重体に陥り、結局、病院に送られて、行為は発覚したそうだ。 
「同じ県内の話だよ」 
友人はそう言ったけど、俺の体験とは関係がない気がする。 

ただ、そんなアンダーな世界がすぐそばに転がってるのなら、こういう経験は誰もがするものなのかもしれないな。とは、 
今でも思ってる。

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