294 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2011/06/18(土) 20:05:45.35 ID:5X8VrCEz0
山仲間の話。 

そろそろ日が暮れようかという頃合。 
一人辿っていた林道で場違いな物を見つけた。 
道の真ん中に落ちていた物。 

それは古い型の携帯電話だった。 

近よった途端、いきなりその携帯が音を上げて震えだした。 
ミッキーマウスのテーマ。 
どうやら着信があったらしい。 

てっきり電池が切れていたと思った携帯が鳴ったのにも驚いたが、 
それ以上にこの山奥で受信出来ていることに驚く。 
どこの電波拾ってるんだろう? 
拾い上げてみたが、発信者名は文字化けを起こしていて読めない。 

どうしようか迷っていると、電子音がして勝手に通話状態になった。 

えっ、俺何もしてないぞ? 

「・・・」 
声は聞こえないが、何か息遣いのような音が聞こえてくる。 
仕方ないと覚悟を決めて、「もしもし?」と話し掛けた。 

「・・・ぞ」 
「もしもし? よく聞こえませんが。この携帯は落ちていた物で・・・」 
掠れた声相手に事情を説明していると、突然鮮明な大声がスピーカーから流れ出た。 

「見つけたぞ」 

理由もなく、背筋がゾッと寒くなる。 
携帯を投げ棄てるや否や、後ろの山に気配が湧いた。 
何か正体がわからないモノが、嫌な気を発しながら駆け下りてくる、そんな気配。 
大きくて重たいモノが、自分目指して真っ直ぐに向かってくる、そんな気配。 
理由はわからないが、何故かそう確信してしまった。 

暗くて足元も定かでなかったが、それでも必死に林道を駆け下りた。 
追ってくるモノが何かはわからない、しかしアレに捕まっては絶対に駄目だ。 
何度も転げながら、いつしか泣き出していた。 
距離を詰められて来ているのがわかった。 

このままでは追いつかれる! 

いきなり目の前の林が切れて、舗装道路に出た。 
新しく付けられた道まで駆け下りてきたのだ。 

運良く、丁度通り掛かった軽トラックがあった。 
天の助けに思えた。 
身体を張って何とか車を止め、乗せてもらうことに成功する。 

彼を乗せた車がスピードを上げるにつれ、後ろの気配は鎮まっていった。 
やっと安堵の溜息がつけた彼に、様子を窺っていた運転席の老人が話し掛ける。 
「お前さん、一体どうなすった? 
 まるで鬼にでも追いかけられたような顔をしてるよ」 

説明しようとして、一瞬言葉に詰まる。 
こんなことを話して、果たして信用してくれるだろうか? 
少し迷ってから、結局洗いざらい話すことにした。 

老人は不思議そうな顔をしたが、それでもこう教えてくれた。 
「それが本当ならば、しばらくこの山に登らん方がええ。 
 奥に何がおるのかわからんが、そのモノとお前さんには今、縁が出来とる。 
 言葉を交わしちまったことで繋げられたんだろう。 
 目を付けられている時は、危ない行動は控えるモンだ」 

そう言ってから、親切なことに最寄りの駅まで送ってくれたという。 
それ以来、彼は老人の忠告を守り、その山を避けているそうだ。 

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