軽トラの荷台に、犬

499 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/07(土) 22:00:08 ID:OJJNf6pn0
友人の話。 

いつもは寂しい山外れの実家に、珍しく客の多い朝があった。 
祖父の狩り仲間ということで、皆で猪狩りに行くのだという。 
軽トラ何台かに分かれて山に向かうのを見送っている内、アレ?と首を傾げた。 

祖父の軽トラの荷台に、犬が一匹乗っていた。 
日本犬みたく尻尾が巻いた白犬で、太い足を荷台に踏ん張り立っている。 
何となく誇らしげな顔をしているように見えた。 

彼の実家に犬はいない。 
他の者が連れてきた犬は、すべて別のに乗っていた筈だけど・・・。 

「祖父ちゃん、一体何処から犬を引っ張ってきたんだろ?」 
何の気無しに隣にいた父に、そう聞いてみる。 
「犬って何のことだ?」 
父は不思議そうに聞き返してきた。 

「ほらあそこに見える、祖父ちゃんの車の荷台に乗ってる奴」 
「・・・何も乗ってないぞ」 
父は目を凝らしてから、訝しげにそう答える。 

犬がいるいないで押し問答していると、祖母が何事かと割って入った。 
話を聞いてから目を細める。 

「それシロだよ。前に家で飼ってた犬。あんた(父)も覚えてるだろ。 
 爺ちゃんが狩りに出ると、今でも時々付いていくみたいだよ。 
 そういや、あたしも何度か見たねぇ」 

祖母はそこまで話すと、嬉しそうに母屋へ向かった。 
「シロが見えた日にゃあ、必ず大きなシシ(猪)が獲れるんだよ。 
 今から捌く準備しとかないとねぇ」 

「そのシロっていう犬、何で手放しちゃったのさ?」 
犬好きの友人は、少し責める調子で聞いてみた。 
今彼が家族と住んでいる家では、ペットが飼えないのだ。 

「別に手放したわけじゃない。シロのやつ、もう死んじまってるんだ。 
 俺が中坊の頃にな。頭も度胸も良い奴だったけど、寿命にゃ勝てんわ」 

それきり父は、小さくなる軽トラをずっと見送っていた。 
「・・・俺もシロ見たかったなぁ・・・」 
小さくそう呟くのが聞こえたそうだ。

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