背中の小さな瘤

954 :全裸隊 ◆CH99uyNUDE :2008/02/09(土) 02:11:26 ID:Mpb0eRTD0
友人の背中には、小さな瘤があった。 
皮膚科では粉瘤と診断され、皮脂腺や毛穴に脂肪や老廃物が 
溜まったものだと説明された。 
粉瘤なら、簡単な手術で取れる。 
彼は手術を受け、小さな瘤の中身は取り除かれたが、 
粉瘤など見慣れているはずの医師が、不思議そうに見ている。 
「普通、こんな色じゃないんですよ」 
医師は、黒ずんだ梅干のような姿のものをピンセットで突付いた。 
「もっと白っぽいのが普通なんだけどな」 
医師はピンセットでつまみ、医療用の鋏で粉瘤を切り開いた。 

中から出てきたのは、黒く小さな湿っぽい塊。 
やたら臭かったらしい。 
医師と共に、その黒い異物を見ている彼には、ふとそれが 
虫の糞に見えた。 
彼には心当たりがある。 
虫の糞なら、俺にも心当たりがあった。 

彼の服や髪の毛から、小さな青虫が這い出てくるのを 
俺は何度も見ていた。 

秋の山で彼は大きな蛾の毒にやられ、あちこちの皮膚が 
ひどくかぶれたことがあった。 
寝袋の中に蛾が入り込んだのに気付かず、背中で押し潰したのだ。 

蛾の死骸をテントの外へ捨てたが、彼が夜明け前に痛痒くて 
寝ていられなくなり、朝にはテントをたたんで下山した。 

帰ってから見ると、寝袋の中に、小さな卵が産みつけられていた。 
数え切れず、信じられないほど多くの卵だった。 

数週間かけて、彼は毒でただれた皮膚を治療した。 
彼の身の回りに小さな青虫が出始めたのは、冬を越え、 
春になってからだった。 

服や靴、時にはバッグから。 
鼻をかむと、鼻水の中に青虫がいたこともあったらしい。 
まさか蛾の幼虫が人体に寄生などするまいと思ったが、 
寝袋の卵と、その青虫が無縁だとも思えなかった。 
医師が首をかしげるような、不思議な粉瘤も気がかりだった。 

彼の肌近くに、青虫がいるのは間違いなさそうだったが、 
しばらくして、彼の身辺から青虫は消えた。 
ちょうど成虫になる頃だと思ったが、口にはしなかった。 

粉瘤のなかの臭い物体が本当に糞だったのか、彼は知らない。 
医師がそれをどう扱ったのか、それも知らないままだ。 

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