酒を呑みながら

404 :全裸隊 ◆CH99uyNUDE :2007/11/10(土) 08:46:04 ID:Dn4afmQ00
秋、本州でも高山では雪が降り始め、11月から翌年の 
6月か7月までは、山小屋さえ閉ざされる。 
賑やかな声は聞かれなくなり、寡黙な連中が多くなる。 
冬の手前、秋の終わり。 
そんな時期の野宿というのはまた格別で、特に朝が良い。 

顔の冷たさに目を開け、テント代わりに枝から吊るしたシートを 
めくると、周囲が白く光っていた。 
積雪というほどでもないが、雪が薄く周囲を覆っている。 
空は暗く、月の明りもぼんやりしている。 
朝露が草木に降る音さえ聞き取れそうなほどの、静けさ。 
時計を見ようとランプに手を伸ばしたが、この暗さと静寂を 
破るのは、あまりに野暮な気がした。 
明るくなればそれが朝だと、もう一度横になり、身体を丸めた。 

遠くからの足音。 
石を踏み、ざくざくと一定のテンポで進んでくる。 
これから山へ入る連中だろう。 
だとすれば、もう朝は近いということになる。 
そのまま起きることに決めた。 

草の朝露を両手にこすりつけ、形ばかりの洗顔。 
振り返ると、足音の主は完全な冬支度の男達だった。 
人数は3人だが、登山者の格好ではない。 
頭の笠から足の靴まで、全身を藁で覆っている。 
大きな藁人形が歩いているようなものだ。 
全員、大きなひょうたんを手にして、始終酒を呑みながら 
歩いているようだ。 
とんでもなく酒臭い。 

通り過ぎ、暗闇が山へ向かう彼らの姿を隠し、足音が残った。 
俺は寝ぼけた頭を振り、もう一度朝露で顔をぬぐった。 

冬、この山で死にかけ、誰かに酒を貰い、朦朧として案内され、 
捜索隊に見つかり、あるいは別の登山者に行き会う。 
そうして命拾いした者がいる。 
誰に案内されたのか、彼らの記憶はあやふやだ。 
地元には、大酒呑みの鬼が山にいるという伝承がある。 

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