タヌキ

899:我流格闘家 08/22(水) 04:58 LcTxp7lzO 
お久しぶりです。今年も籠もって来ましたよ山奥に。 
俺が最近やってる修行は、瞬発力を養う為に飛んでいる虫を掴み取る修行。 
夜間に蝋燭に灯を灯し、集まってくる虫を掴み取る。 
その場合、潰して殺してはならない。一瞬で手のひらに包み込みように虫を捕らえる。 
簡単なようだけど結構難しい。刺したり咬んだりする奴もいるしね。 
そんな事を日が沈んでからはずっとやってました。 
そんなある日、一匹のタヌキが姿を現す様になった。別にタヌキなんか珍しくもないのだけど 
藪から顔を出しては延々とこちらを眺めたりしていた。 
体格から察するに雄の成獣。木の実なんかを分け合って食べるぐらい仲良くなったけど 
撫でようとすると攻撃的になる。そういうところは野生らしいなと思った。 
そんなある夜に起こった話。 

タヌキというのは人間より遙かに夜目も効くし耳も良い。 
だから夜間に他の野生動物が近づいて来ても先にタヌキが警戒するのですぐにわかる。 
俺は猪を最も警戒している。あいつらは身に危険を感じると積極的にその牙を持って襲ってくる。 
大腿部の動脈なんか傷つけられたら命取りだ。 
その日、顔見知りのタヌキが耳と鼻をピクピクやり始めた。外敵の合図だ。 
俺は身構えて蝋燭の灯を消し、気配だけに集中した。 
向こうの藪の中の気配に、俺も相棒のタヌキも集中していた。物音はしないが気配だけがある。 
俺は野猫だろうと思った。野生化した猫は闇夜を全く音を立てずに歩き回る隠密のプロだからだ。 
しかし、やがてタヌキが「グッグッグッ・・・」みたいな声を出し始める。明らかに怯えている声。 
確かに凶暴な野猫はタヌキを襲うこともあるが、タヌキがこんなに追い詰められた声を出すのは人間に対してだけだ。 
何者かの気配はすぐそこまで迫った。相棒のタヌキはさっさと逃げ出したようだ。 

突如、「バーン」と雷が落ちたような音が鳴り響き俺は腰を抜かした。 
辺りで眠っていた鳥達が一斉に騒ぎ始めた。 
次に気配を探った時、その気配は消えていた。 
あれが何だったのかはわからないが、タヌキがまるで人間に示すような警戒音を発した事から人間とも取れるし 
一瞬で気配を消したあれが人間とは思えない。 
山では色々な事がある。 

来月からは九州の某山に籠もる予定です。 
今から楽しみ。

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