大きな人影
344 :1/5 :sage :2007/03/05(月) 01:40:09 (p)ID:X7sj8QzK0(5)
一応山にまつわるのかな?
俺は中学の時は剣道部に入ってた。
普段は放課後6時くらいまで部活があるんだけど
水曜と土曜は「夜練」と言って、剣道部だけ夜の9時半くらいまで部活があったんだ。
水・土以外は他の部活もだいたい同じ時間に終わるから
近所の幼馴染みなんかと一緒にチャリで帰ってた。
けど剣道部は俺と同じ方面の地区に住んでる奴がいなくて
水曜・土曜は暗い夜道をいつも俺一人でチャリで帰ってたわけだ。
確かあれは夏の盛りで、妙に蒸し暑かった夜のこと。
いつものように夜錬が終わり、俺は一人でチャリを漕いでた。
時間は夜10時前後だったと思う。
俺が住んでた田舎は夜8時も過ぎると車の通りもぱったりと止んで道の両脇にある田んぼから蛙の鳴き声で埋め尽くされるほどのド田舎だった。
とにかくげろげろげろげろうるさくて、俺はそれをいいことに
ちょっとした鼻歌なんか歌いながらチャリをひたすら漕いでたんだ。
俺が走ってたのは県道で、一応片側に歩道がある。
道の両脇が田んぼなのに、車道とは別に縁石があって歩道があるってのはちょっと想像し難いかもしれんけど、とにかく俺はちゃんと歩道をチャリで走ってた。
んで、しばらく走ると周辺に民家の全くない、本当に田んぼに囲まれた道になった。
よし、あと家まで15分くらいかって思った時だった。
さっきまでげろげろげろげろ鳴いてた蛙の声がだんだんフェードアウトしていった。
そしてそれとクロスするように、遠くからシャリン……シャリン……って
乾いた鈴みたいな音が一定周期で聞こえてくるのに気づいた。
「なんだろう?」と思って目を凝らして前方を見てみたら
そこには大きな人影があった。
ただ人影と言っても、それは妙な輪郭だったんだ。
その人影は、時代劇なんかで見るような、虚無僧の姿をしていた。
チャリに乗ってた俺よりも長い、たぶん2メートル近くある錫杖をシャリン……シャリン……って鳴らしながらこっちに向かって歩いて来るんだ。
その虚無僧自体も大きくて、とにかく巨大な影としか言いようがなかった。
俺はとにかく怖くて、視線を真っ直ぐ前に固定したまま通り過ぎた。
すれ違った時も、辺りは暗闇のはずなのに、その虚無僧だけ更に黒くて、にもかかわらず被ってる編笠(?)の編み目までしっかり見えてさ……。
それってたぶん物理的にはありえないことなんだろうけど。
すれ違った後は、俺の後ろの方でシャリン……シャリン……って音が遠ざかっていった。
ようやく聞こえなくなった頃、意を決して振り返ってみたら、そこには誰も歩いていなくて
またいつのまにか田んぼの蛙がげろげろげろげろ鳴き出していた。
ハンドルを握ってた俺の手は汗で滲んでいて、膝もガクガク笑ってた。
以上が俺の体験談です。
しかし現代でも虚無僧なんているんだろうか?
チンドン屋とか大道芸人の類じゃなくて、ガチの修行僧。