岩壁

103 :全裸隊 ◆CH99uyNUDE :2007/02/12(月) 20:46:08 ID:y2bAMjb60
両手が岩壁の上に出た。 
手がかりを掴み、身体を引き上げれば、登り切れる。 
その手がかりが見つからない。 
たしか、わずかな窪みがあったはずだ。 

岩壁の頂点と、目の高さがほぼ同じ。 
岩の上面を睨み、手がかりが作り出す影を探したが、何もない。 
左手を少し下ろし、しっかり岩を掴んだが、その体勢からは登れない。 
胸から上を岩の上に出し、脇腹の辺りで左手が岩を掴んでいる。 
両足は、ほとんど宙に浮いている。 
右手の指先は、どこにもかからない。 
腕全体を押し付けることも出来ず、バランスが崩れ始めた。 
もう、いくらも身体を支えていられない。 

頭の中、落ち方を考え始めていた。 
大した高さではないが、下は固い岩だ。 
横の斜面へ落ちれば、地面だけは柔らかい。 
横へ落ちるには、落ちる瞬間に、左手で岩を突き放せば良い。 
無論、斜面には木があり、枝があり、藪がある。 
それでも、岩よりは良いと思った。 
「落ちるぞ」下に声をかけた。 

その時、黒っぽい岩が波立ち、光った。 
見事な坊主頭が、岩の上に浮いてきた。 
右手が届きそうだ。 
それが何であるかなど、気にしても仕方ない。 
何もしなければ、落ちる他ないのだ。 
坊主頭に手を乗せ、力を込めた。 
「いてっ」声が聞こえた気がしたが、構ってはいられない。 
右手を支点に引き続け、右足が岩の上面にかかった。 
これで何とかなる。 
転がるように登り切り、息をつき、しびれる左手を振った。 

坊主頭が振り返り、ものすごい形相で俺を睨み、ゆっくり岩に潜っていった。 
波紋が広がり、その形のまま残った。 

俺の手に岩は冷たく、硬かった。

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