目を覚ます

398 名前: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 2005/09/06(火) 00:19:36 ID:n7cId/m00
同僚の話。 

彼は地元の消防団に参加しているのだが、以前に団員仲間で狐に憑かれた者が 
いたのだという。 
いや、実際に狐かどうかはわからないのだが、団の中の物知りが「あれは狐だ」 
と断言してから、狐ということになったのだとか。 
普段は別に変わるところはなかったが、一たび中の狐が目を覚ますと、甲高い 
奇声を発して暴れ回ったそうだ。 

信じられない怪力を振るい、獣じみた動きをするだけでも大変だったのに、 
加えて不思議な神通力まで発揮した。 
手を触れることなく、身の回りの物を空に飛ばすのだ。 
かなり重量がある物まで飛ばしており、取り押さえるのが一苦労だったという。 

特に夜回りの時、中身の入った鍋ごと吹っ飛ばされたのは大事だったとか。 
彼が夜警から帰ってくると、皆で哀しそうな顔をして始末をしていたのだと。 
猪肉が一枚だけ天井に張り付いていた光景が、どうにも忘れられないそうだ。 

なぜか狐憑きが出るのは、団の活動中だけだった。 
腹立たしいことに当の本人は、暴れている間の記憶がまったくなかったらしい。 

そんなこんなで手をこまねいているうち、大きな山火事が発生してしまった。 
猫の手でも借りたい時だということで、仕方なく憑かれた彼も動員された。 
団の者は「中の狐さん、頼むから暴れんでくれよ」と祈ったという。 

団の受け持ち場所は、変電所の近くだった。 
「筒先に注意しろ。電気が近いぞ!」注意と檄を飛ばし、消火活動に移る。 
皆が忙しく動き回る最中、ホースの先端辺りで騒ぎが起こった。 
どうやら高電圧のキュービクルに水を掛けた粗忽者がいたらしく、当たり前の 
ように感電してしまった様子。 

「注意しただろうが」慌てて駆けよったが、何やら様子がおかしい。 
そこの皆がぐるり輪を作ったまま、凍りついたようにピクリとも動かない。 
何かキラキラ光る煙が立ち上っていた。 
それが激しく捩れる様は、まるで苦しんでいる生き物を連想させた。 
煙は人の輪の真中、倒れた隊員の身体から抜け出していたという。 

すぐに煙は掻き消えた。 
我に返って倒れた団員を確認すると、例の狐憑きだった。 
何となく「あぁやっぱり」と思ってしまったそうだ。 
倒れた団員は、すぐに病院に運ばれた。 
検査では何の異常も見つからず、やがて目を覚ました彼はピンピンしていた。 
「感電したのはあいつじゃなくて、中の狐だったんだな」 
皆が皆、そう考えたのだという。 

電気ショックの効果なのか、それ以降は狐憑きは出ていない。 
「今度狐に憑かれた奴が出たら、即座にビリビリだ」 
団長がそう宣言してから、団員は狐が来ませんようにと祈っているそうだ。 

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