なんとなく去年と同じ時期になって思い出したんで
去年の10月後半か11月前半くらいに兵庫県の戸倉峠付近行った時の話。

その時は確か、親も私も夏が忙しくて蛍が見れず、代わりに星を見に行こうって話になったんだ。
母は昔に他界して居なかったので、私と父二人で車に乗り込み、運転は父任せで昼から峠付近の川でアマゴ釣ったりしてた。
夜も更けてきていよいよ星を見ようと、父の穴場到着してみると、
そこはなんと封鎖になったトンネルの真ん前。
今は道路が封鎖されて人気も明かりも無いので星が良く見えると父は自慢げだった。
が、私は正直言ってそれどころではなかった。
切り立った崖の中腹にある道路を中心に、登り側に崖、下り側に斜面。
着た道を振り返れば、今は封鎖されているらしい蔦に覆われた何かの建物
前を向けば真っ暗で先も見えない廃道となったトンネル・・・。

街暮らしの私にとっては普段体感する夜の暗さとはまるで違う世界だった。
一メートル先の親父の顔が、車のライトの先に居なきゃ見えないんだぜ!?

「なにこれ星どころじゃねえ」

のんきに外で煙草を吸う父に言われて上を見れば確かに絶景だったのだが、斜面のせいか先ほどまで見えていた月も見えない。
正直言って車から出る気も、車のライト消す気も微塵も起きなかった。
それでも父が、大丈夫!というのを聞いて、しぶしぶ外に出ると小さな光が確かに綺麗だ。

斜面の方に、緑色の小さな二つの光が点滅もせずに動いている。

「あれ?蛍?まだいたんだねー」

そう言ったその時、父が「え゛?」と、妙に生々しい声を上げたのを聞いた気がする。
うん、おかしいと思うんだ。だって、この時期にここらの蛍なんて皆・・・

本当は星空キャンプなんて言ってその日はそこに車で泊まるつもりだったのだが、
急に無風になって父の煙草が消えたのに私が耐え切れず、あえなく戦線離脱した。
綺麗っちゃ綺麗だったが、あの虫の声もしない真っ暗なトンネル前には二度と行きたく無い。

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