吐息

二十歳の頃の話。

国道沿いの神社のそば、人の住んでいない木造の住宅があった。
そこの二階の窓に老婆の幽霊が出ると聞いた。

お化け好きな友人のNと原付で出掛けた。
着いたのは夜中の零時過ぎ。
神社にバイクを止めて、例の家に向かった。
その二階家は確かに人が住んでいなかった。
少々不気味だったが、
一時間ほど周囲をうろうろしても何の気配もない。出る様子もない。

常夜灯が煌々と灯る神社の境内で一休みした後、
「帰ろうか」とバイクの置いてある鳥居に向かった。

鳥居の下まで来たときに、顔を向け合って、なにやら話をしていたと思う。
ふと、友人の右頬が引きつった。でも、話を続けている。
変な気がして、友人の顔に視点を向けたまま、彼の周囲をうかがった。
特別何もない。
と、その時、友人の顔の右そばから、ふいに大きな吐息が聞こえた。
低い音で「ふぅーーーー」と。
邪魔するな、馬鹿にするな、そんな威圧感があった。
ぎょっとした顔したら「あ、おまえにも聞こえたのか」と一言。

大慌てでバイクにまたがって、帰宅した。
顔が引きつったとき、友人は一度聞いていたらしい。 

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