サナトリウム

584 サナトリウム1 sage New! 2008/08/02(土) 03:14:08 ID:TmKiEHv40
まあこの話は、何年か前の夏休みに、外国の友達のAの所に遊びに行った時の話。

多分話の始まりは、『日本のお化け屋敷』だったと思う。
Aはジェイソンとかドラキュラみたいな『パニックホラー』が好みで、
「日本のホラーハウスは静かでつまらなさそう」って話から、
「日本では廃墟とか心霊スポットとかに行って、そういう空気を楽しむんだ」と俺。

「じゃあ、そういう心霊スポットに行こうぜ!」という話になって、
Aの友達のBと車に乗って、往復4時間ほどの山の中の『治療所』に向かった。

どうやらその土地は、近くで牧場をやっているBの親戚が管理しているらしく、「狼やコヨーテが出る」という話で、
違うんだよ!日本の廃墟は人も動物もいない静かな怖さが風情なんだよ!馬鹿!と思ったのを覚えている。

道中、車内から鹿?やよく分からない何かの死体が見え、
目的地に近づくにつれ、喰い荒らされた死体が増えていった。
そして目的地につくと、本当に静かで、ここで治療生活を送れるなら悪くないな、と思っていたが、
半分腐った木のドアには『(地名)精神病院』と英語で書かれていたため、
・人里離れた山奥に『隔離』されている理由。
・おそらく音に敏感な患者もいただろうから、静けさの理由が分かった。

Aはドアの前で「いいな?これはミッションだ!」と言いながら、
バックからご丁寧にお手製?の消音装置の付いたハンドガンを取り出して、南京錠にぶっぱなした。
錆びていたせいもあってか、南京錠はぐねっと曲がり、AとBの体当たりで地面に落ちた。

先にAが、スパイよろしく銃を構えながら中に入る。
まだ昼だったこともあり、薄暗いだけのエントランスホールはほぼ原型のままで、
掲示板に貼られたお知らせや、カウンターの紙コップとポットまでそのままだった。

俺は掲示板の、一番手前側の一枚を読んだ。
『新院へ移動のお知らせ』で、『施設の老朽化や一部の倒壊により移動がある』と書いてあり、
日付は1988 8/21だった。

次は『C棟15号室の○○さん死亡のお知らせ』で日付は1988 8/18。
以下5枚が5名死亡のお知らせで、間に2枚『講師変更のお知らせ』で、
あと2枚がC棟での死亡者2名のお知らせ、日付は1988 8/6だった。

全部読んでから気が付いた。
ここは『精神病院』で、こんなに立て続けに死者が出るはずがない。
すぐにカウンターを漁っていたABにこの事を報告したが、「そいつはいい!やる気が出る!」という返事だった。

1階の病室、診察室を回ってみるも、多くの残留物を発見するも特に異変は無し。
切り裂かれた人形や、ぼろぼろになったベッドがあったが、埃まみれで、当時の患者の犯行らしかった。
Aは地下に降りる道を探していたが、階段は1つ崩れていて進行不可。
もう1つは降りた先の扉が開かなかったため、しょうがなく2階に行った。

2階は遊戯室や図書室があるくらいで、病室は無い。
が、『C棟→』という標識を見つけ、みんな矢印の指すままに階段を降りた。

どうやら隔離病棟らしい。
鉄の防火扉チックな門にかんぬきがかけられ、さらに南京錠まであった。
Aは南京錠に鉛弾をぶちこんだ。
なかなかしぶとかったが、結局南京錠が負けた。

中はさらに4つの小部屋への扉があり、一つ一つ鍵とかんぬきが外側にかけてあった。
一番左を開けると、一面黒っぽい部屋に、簡素なイスとベットがあった。
良く見ると、イスの下やベッドの後ろは白かった。
2つ目3つ目もそんなんだった。
1つ目から3つ目の戸にかんぬきをかけ、4つ目を開けた。

4つ目はまた異様な部屋だった。
床には何かベットの綿らしきものが散乱し、四方の壁にはマットが付けられ、
壁のマットはほじくられ、コンクリートが所々露出していた。

バタン、という音がし、3人とも飛び上がった。
俺とBの視線は、ベッドの上に釘付けになった。
ビダン!バダン!ビダン!ビダン!と、魚のようにベッドの上の何かが跳ねまくる。
俺は声を出してはいけないと口を噤んだが、Bは「ひぇ…」と声を漏らした。

途端にそれがバン!と起き上がった。
両手の無いらしき人っぽい何か。
坊主頭で、目の位置にはアップリケが縫いつけられていた。
俺はAとBの手を引いて部屋から駆け出た。
ソイツはよたよたとこっちへ歩いてきていたが、俺はバン!とドアを締めかんぬきをかけた。

ゴン!ゴン!ゴン!とドアに何かをぶつける音がした。
Bは泣き出しそうだった。
俺は上への階段にBとAを引きずりだし、またかんぬきをかけた。

それからは車まで無言だった。
Aはむすっとしてるし、Bは泣いていた。

車に帰るとAが、
「チキンが。Bはともかく情けねぇな。せっかく地下への階段を見つけたのに、そこのドアが動いてたぐらいでビビって」
俺とBは、あの部屋にはドアも階段も無かったと言えなかった。

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