赤い布切れ

307: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2005/11/06(日) 10:14:54 ID:+AN1Fcxp0
ふかふかの雪に膝まで潜りながら、ラッセルが続いている。 
気温はマイナス10度前後だろう。 
動き続けるには手ごろな気温だ。 
西の空、高いところで雲が風に吹き散らされ、目に見える範囲で 
3箇所ほど、山裾から湯煙のように雲が立ち昇っている。
天気が崩れる前に冬季小屋までは行けそうだ。 
竹竿を細く割り、赤い布切れをつけた目印を要所で立てながら来た。 
ここまで、何本使ったろうか。 
天候の急変で方向を見失うような事でもあれば、その竹竿が頼りだが、 
離れ過ぎず近過ぎずという加減が、案外難しい。

振り返る。 
俺たちが歩いてきた経路に沿って、小さな赤い布切れが 
ちらちら光っていた。

前方に冬季小屋が見えてきた。 
頭上、灰色の雲が広がり始めていた。 
晴天の名残など、すぐに失せてしまうだろう。

小屋をどこかへ運び去ろうという勢いの風。 
壁に突き刺さり、めり込むような雪。 
吹雪の一夜というのは、やはりどこかしら不安だ。 
朝になっても吹雪はやまないが、多少は静かになっていた。 
小屋の外にあるトイレへ行こうと扉を開けた。

そこらじゅうで、小さな赤い布切れが光っていた。 
風に吹かれ、しなった竹竿の先、赤い布切れが激しく揺れている。 
その赤が、目にうるさい。 
見渡す限り、雪原は赤い布を結びつけた竹竿だらけだ。 
とても数え切れない。 
トイレへの行き帰り、呆然とそれを見つめた。
風が強まり、視界が霞んだ。 
あっという間に白一色の世界に引き込まれた。 
赤い布切れなど、もうどこにも見えない。

晴れたら、俺たちが立てた竹竿以外、きっと残っていないだろう。 
小屋に戻ってから、そう思った。

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