動物

691: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2005/11/25(金) 00:25:36 ID:MHsaDjSl0
かつて、死んだ家畜は山へ捨てていたという。 
どういった理屈によるものか、水源近くの急流に投げ込み、 
死んだ家畜が、災厄をもたらすのを防いでいたと聞かされた。 
今では家畜以外のペットなども、死ねばそこへ捨てているという。
捨てるという表現はどうかと思うが、地元でそう表現するには 
やはりそれなりの理由があるのだろう。

死んで捨てられた動物が、夏の盛り、水浴びをする。 
急流に首まで漬かり、暑さをしのぐ。 
それを見たら、桃の実を穴に投げ込むよう言われた。 
動物が追いかけてくるからね。 
桃はどこに? 
穴はどこに? 
行けば分かるというのが、答えだった。

水浴びが行われる急流脇に、テントを張った。 
今夜あたり水浴びするんじゃないかと、皆、そう言っていた。 
見られるものなら、予定を変更してでも、それを見たいと思った。 
見えなくても、それで良いと思った。

崖の下に桃の木が植わっていて、青い、小さな実をつけていた。 
よく枯れずにいるものだ。 
穴はそのすぐ後ろだ。 
奥行きは2メートルもない。 
穴というより、えぐられた跡のようだった。

夜中、テントから出て急流を覗き込んだ。
急流の中、数知れない動物が流されもせず、水面から 
頭を出していた。 
身動きもせず、牛や馬、山羊、鶏、犬などが水に漬かっている。 
流れが乱れるわけでもない。 
激しい流れの中、多くの動物の頭が静かにあるだけだった。

息を呑むとか、不気味とか、そういった感覚ではない何かが 
胸を打ち、涙がこぼれそうだった。

頭だけの動物たちが静かに動き、桃の木の後ろにある穴に消え、 
やがて全ての動物が穴に入った。 
桃の木から小さな実をもぎ、穴の中に投げ込もうとした。 
穴の中には何もいない。 
動物の臭いさえない。

投げ込もうとした実を、そっと穴の奥へと転がした。 
何かが心のどこかを満たし、今度こそ、涙が溢れた。

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