石馬

761: N.W ◆0r0atwEaSo 2005/11/30(水) 05:56:21 ID:1dx3DZGP0
おはようございます、N.Wです。
知り合いから聞いた話。

社の裏に、小さな鏡池がある。 
その中に、子供の椅子程の石馬が沈められている。

霜月の終わり頃、池の水が干されて、石馬が現れる。 
ああ、今年は大丈夫だ。相変わらず、だな。 
人々が何となく、ほっとしたような会話を交わす。 
毎年、東に顔を向けて沈められるのに、年によっては北を向いたり、倒れたり。 
そんな時は良くない事があると言う。

池から引き上げられた石馬は、井戸水できれいに洗われた後、白い布で丁寧に身を拭われ、 
若者たちが担ぐ輿の上に乗せられる。

 駒や駒 歩んで雪ン子連れて来い 山から雪ン子連れて来い 布団も一緒に持って来い

子供たちがそう囃し立てる中、輿は里を一巡りし、社の中へ戻される。 
里の人は、それを待って、御供えに願い事を書いた小さな旗を添えて奉納する。 
今宵、社の扉は一晩中開け放たれるが、人は日暮れから夜明けまで表へ出られない。 
駒に乗って遊ぶ雪ン子を、驚かせては可哀想だから。

次の日、石馬は再び池の中に戻される。 
御苦労様。また来年。そんな言葉を掛けられながら、水嵩の増してくる池の中へ消えて行く。

それから幾日かすれば、里に風花が舞い始め、やがて辺り一面、綿帽子を被ったようになる。 
ふんわり雪の布団に覆われて、山も田畑も春まで暫しの眠りに就く。

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