四角い石

569: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/01/31(火) 00:41:32 ID:rFQLzn1I0

むき出しになった、硬く真っ黒な地面に大きな石が置かれている。 
自然に転がってきたり、地中から顔を出したものではない。 
人の手によって削られた、とにかく大きな四角い石だ。
奇妙だとは思ったが、土地の平らな具合や、川が増水した場合の 
安全性といった、テントを張るに当たっての要件は満たしている。 
古臭い屋根型のテントを張り、さっさと飯を食い、とっとと寝た。

夜中に目が覚めた。 
川の水音や、木々が鳴る音がする。 
それらに混じって、聞き慣れない音がしていた。 
カリカリと何かを引っ掻く音だ。 
うつぶせになり、耳を傾けたが、見当も付かない。 
寝返りを打ち、仰向けになった時、背中を何かが引っ掻いた。 
地面の上に、グランドシートをじかに敷いているだけだ。 
グランドシートの下、尖った何かが動くのを寝袋越し、背中に感じた。 
痛みはなかった。

大口開けて寝ていた友人を起こした。 
二人でグランドシートをめくり、地面をヘッドランプで照らしたが、 
黒光りするほど締まった地面があるばかりだ。

外へ出た。 
目の前の大石が、カリカリと鳴っている。 
どうやら、石の下で鳴っているようだ。 
気色悪い一夜を過ごし、翌朝、飯も食わずに出発した。

石の下には何人かの死体があると、後になって知った。 
昔、あたり一帯を領有していた大名の当主が、金山探しに 
熱中したことがあった。 
金山は見つからず、調査は徒労に終わったが、金山探しをさせた 
山師の一行は、当然、領内の山をくまなく歩き回っていた。 
彼らが将来、他の大名に雇われでもしたら、領内の地理や様子を 
詳しく明かす可能性は高い。 
その相手が隣国の大名だとすれば、由々しいことになる。
大石の下にあるのは、無論、彼らの死体だ。 
言い伝えによれば、彼らはここまで追い立てられ、あらかじめ 
掘られていた深さ二丈もある穴に突き落とされ、埋められたらしい。

彼らを埋めた後、その場所の土がひび割れ、 
地面が盛り上がるようになった。 
何度固めても、ひび割れができ、地面が盛り上がってくるので、 
とうとう領主は、墓石と重石を兼ねた大きな石を設置した。 
その後、石は持ち上がらなかったが、夜中に音を立てるようになった。 
下から石を引っ掻く音が、ひたすら続く。 
カリカリと鳴り続ける。 
秋、その音は周囲の落ち葉を黄金に変えるともいう。

俺たちが寝ていた真下の地面は、ひび割れもせず、盛り上がりも 
していなかったが、何かが走り、背中を引っ掻いた。 
その何かについて、土地に残る物語は何も伝えていない。

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