墨みたいなもん

505: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 2006/03/31(金) 18:17:01 ID:mxuIMygD0
知り合いの話。
彼はかなりの高齢で、かつて山の火葬場で働いていたという。 
働くといっても仏が出た時だけで、普段は農作をしていたらしいが。 
祭りで一緒に作業をした時、奇妙な談を聞かせてくれた。

「人を沢山焼いているとな、変な物が見える時がある。 
 火が回ってしばらくすると、死体から黒いのがひょんひょん抜けて来るんじゃ。 
 煙というより、墨みたいなもんが、こうパァっと宙に広がってな。 
 まぁすぐに火に炙られて、溶けて消えるんじゃけど」

それが見えるのは、大抵が大病患いで死んだ人だった。 
彼の住んでいた山村にはクダと呼ばれる物の怪がいたらしいが、こいつが憑くと 
人は病になってしまうといって嫌われていたという。

「案外儂が見ていたのは、そのクダじゃったのかもしれんの」 
そう言って彼は、白い歯を見せて笑った。

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