黒い大木

856: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/04/25(火) 22:54:22 ID:Vvcglqt40
灰色の空、凍りついた地面に雪はない。 
猛烈な風が、雪を寄せ付けないのだ。
青光りする地面の先に、黒い大木が三本。 
風に煽られ、枝が激しく揺れ、幹が傾いていた。 
寒々とし、騒々しく、荒削りな風景だった。 
風が作った風景だ。 
腕の良い写真家なら、と思った。 
きっと、この風の音と、寒さそのものを写し取るだろう。

真ん中の木が、ひどく傾いた。 
斜めに引き裂かれた木の姿は、決して珍しくない。

木が裂ける、めりめり、という音を求め、耳が緊張したが、 
鼓膜は、激しい風の音を捉えただけだ。 
傾いた木の幹が限界を越え、不自然なほど曲がった。

一番右の木の枝が全て、ぴんと張った。 
風の中、兵士のように、木が背筋を伸ばした。 
右端の木から枝が伸び、真ん中の木を捕えたかに見えた。

持ち直した。 
捕えた枝に引き寄せられるように、真ん中の木が 
ぐっと踏ん張った。 
風にあらがい、みなぎる力で立ち上がった。
相変わらず風は強く、荒削りな風景だったが、 
もう、寒々としてはいなかった。

その間、数秒。 
大きく息をつき、灰色の空を見上げた。 
自分が四本目の木になりかねない。 
何の脈絡もなく、そんな考えがよぎった。

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