寝袋に包まれ全身をザイルで縛られた遺体

647: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/08/19(土) 08:07:39 ID:G0PStcZs0
寝袋というのは、案外寝苦しい。 
夏ではなかったが、何となく暑苦しく 
古い公民館の床の上、寝返りを繰り返していた。
何度目かの寝返り。 
足首を紐で束ねられたように感じ、 
ずるり、と足の方へ引っ張る力を感じた。

身を起こそうとし、肩を押さえられた。 
足首の紐は、膝から腿へと伸び、巻き上げながら 
全身を縛り上げる。

前日、遭難者の遺体が、雪渓を降ろされていくのを 
見送った。 
寝袋に包まれ、全身をザイルで縛られた遺体は、 
数人の男たちによって、ゆっくり下山させられていた。

奇妙に細長いその姿が、鮮明に脳裏に焼きついていた。 
それと同じ姿を、今、自分がしている。 
身動きもままならない。

顔のすぐ横、そこが水面ででもあるかのように 
人の頭が上半分だけ、浮かび上がる。 
頭はこちらへ、ゆっくり向き直った。 
男の顔だ。 
息がやたらと臭い。
急に気分が悪くなり、夕食で食ったものが、 
胃袋から逆流してきた。 
反吐が頬を汚し、寝袋に染み込んだ。

男の顔は消え、ちゅう、と音がした。 
音は耳のすぐ横で、何度も繰り返される。 
寝袋に染み込んだ反吐を吸う音だ。 
さっきの男が、寝袋に吸い付き、反吐を吸う姿を 
想像し、また気分が悪くなった。

朝、頬は汚れていたが、寝袋には何の痕跡もなかった。

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