会ったことのない甥

866 :本当にあった怖い名無し:04/09/04 22:29 ID:qDyMXSHf
去年8年ぶりに法事であった時に、叔母から聞いた話です。 

叔母は昭和38年生まれで未亡人。夫と買った家でずっと一人暮らしをしていました。 
特に寂しいこともなく普通に暮らしていたある夕方のこと、 
電話が鳴って出てみると、それは叔母が会ったことのない甥からの電話でした。 
叔母の姉はその10年程前に事故死していたのですが、その直前に離婚していて、 
叔母は父方に引き取られた甥を一度も見たことがありませんでした。 
電話の内容は、父親の実家まで行く途中だが、 
手違いでホテルに泊まれなくなったので泊めて欲しいというお願いでした。 
顔も知らない甥でしたが、死に目に会えなかった姉の息子ということで、 
叔母はすぐに了解して駅に車で迎えに行きました。 

駅についた叔母は驚いたそうです。 
確かに子供っぽい声ではあったが、しっかりした受け答えだったので、 
てっきり高校生くらいの男子を想像していました。 
しかし待ち合わせ場所には、髪を後ろで束ねた女の子が一人ぽつんと立っているだけ。 
ところがその子が甥でした。 
可愛らしい顔立ちと長い髪をみて、勝手に女の子だと思ったのです。 
叔母は甥を家に入れ、お風呂と食事を用意してもてなしました。 
甥は話しかけなければ答えない大人しい子で、母親の遺品を持っていて、 
その中に叔母の子供の頃の写真がありました。 
甥はそれを叔母に「どうぞ」と差し出して、9時頃になると寝てしまったそうです。 
ところが深夜、叔母は甥のうなり声で目を覚ましました。 
甥は汗だくで熱を出しているようでした。 
子供用の解熱剤がなかったので、救急病院に連れて行こうとしたところ、 
甥が目を覚まして断ったそうです。 
すぐに熱もさがったので、叔母は再び眠りにつきました。 

次の日叔母は大事をとって、午まで様子をみようと甥に提案しました。 
案の定甥はまた熱を出して、実家に電話を入れてもう一晩様子をみることにしました。 
その日の夜、叔母は近所の宴会に誘われましたが、断って甥と共に寝ました。 
明け方前、物音で目を覚ました叔母は、隣で寝ているはずの甥がいないことに気が付きました。 
「トイレかな?」と思った通り甥がトイレから戻ったので、安心して寝ようと思った時でした。 
「ドーン」という音と振動で身体が浮き上がり、次ぎに激しく揺さぶられました。 
阪神・淡路大震災でした。 
咄嗟に甥の上に覆い被さって、揺れが静まるのを待って、家から出ようとしました。 
しかし玄関に着いた時、甥に腕を引かれて転んでしまいました。 
そのあと激しい振動と共に目の前が暗くなって、叔母は気を失ってしまったそうです。 

目覚めた時叔母と甥はまだ玄関にいて、叔母は身も凍る思いをしました。 
前のビルの屋上から車が数台落ちて、玄関の前に山積みになっていたのです。 
あの激しい振動は車が落下した衝撃でした。 
もしあのまま外に出ていたら、間違いなく車の下敷きになっていたでしょう。 
しかし甥はまったく怯えた様子もみせず、叔母はケガした足を手当してもらったそうです。 
叔母と甥はその後復旧活動に参加して、数日が過ぎた時のことでした。 
突然甥が、父親の実家には行きたくないと言い出しました。 
話を聞くと、実は甥は父親が亡くなったので父の実家へ行くのだが、 
父と父の実家は非常に仲が悪く、甥は引き取られに行くのではなく、 
施設に預けられる手続きをするために九州へ行く途中だったことがわかりました。 
叔母はすぐに甥を引き取って、今は二人で暮らしているそうです。 
おわり。

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