ばあさん

594 : タニシ[] 投稿日:03/07/21 16:15
もう20年近く前の話。 
俺は埼玉県の某所から、千葉県のN市に移転してきた。 
すし屋で修行中の友人のO君はそんな僕の新居を 
仕事が終わった後の深夜に訪問してくれた。 

おたがいに腹も減っていたし、だが、俺の部屋にはもてなすものもなく、 
どこか大通りを走っていれば深夜レストランでも見つかるだろうと思って 
O君の運転する車で出かけることになった。 

俺の部屋を出てすぐ、大通りにでる前の小さな交差点で 
他の交通がないにもかかわらず、O君はしばらく車を停止させていた。 
「ん?」とおもって彼の顔を見ると、一点を見据えて苦々しく「はやく渡れよババア!」とつぶやいた。 
「ばあさんがいるのか?」とおれがきくと、彼は「え?」といってもう一度その場所に目をやり 
「あ、なんでもない。」といって車を発進させた。 

その場所は、数日前、近くの病院にいくために道路を横断しようとしたおばあさんがトラックの左折に巻き込まれて死んだ場所なんだ。 
彼は昔から、旅館なんかに行くと「この部屋に誰かいる」的な発言をよくするやつだった。 
そのときは本当かどうかは分からなかったけど、 
彼にはばあさんが見えたのかなぁ・・・

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