小さな扉

219 : 思い出 1[] 投稿日:03/06/28 11:15
俺が小学校の時は、まあここでいうDQNみたいなもんで、思い出せば恥ずかしい事ばかりしていた。 
そんな消防の夏のとき、俺が部屋でくつろいで買ったばかりのマンガを見ていると、
ふと気付いた事があったんだ。押し入れの上の方に、小さな扉があったのだ。 
好奇心旺盛だった俺は、読みかけのマンガをほっぽいてその扉に近付いた。
扉を上の方に軽く押すと、キイという音を立てて扉は開いた。開く事を認識して、小さい椅子を持って来て扉から中が覗ける様にした。 
椅子に昇り、扉を開け中を見ると、普通に立っていられそうなくらいのスペースがあった。中は真っ暗。 
こんな凄いものを見つけた俺は、友達に見せて自慢してやろうと思った。 

次の日、友達のげんちー(あだ名)を呼んで、俺はまたあの扉を開けた。げんちーの家はお寺さんだった。 
「な、すげえだろ!?」 
「よっちゃん(俺のあだ名)すげえ!で、ここ入れるの?」 
「知らん」 
「じゃあ俺懐中電灯もってくるから、すこし待ってろ」 
「うん」

数10分してげんちーは懐中電灯を2つ持って戻って来た。早速、また扉を開けて中を覗く。初めてその空間に光が入った。 
中は、ネズミも埃も無かった。心臓が好奇心でばくばくした。 
「なんかあったか?」げんちーが聞く。「いや、何もない。入れるみたいだぞ」 
そう言いながら俺はその部屋に入ってみた。床はベニヤとかそういうので出来てると思ったけど、案外しっかりとしていた。 
「大丈夫、入れる」 
俺のその言葉を聞きげんちーは入って来た。中をしばらく歩き回ってみたが、何も無い。しかし、床も天井も壁も、ぜんぶ真っ黒い色で塗りつぶされていた。 
今思うとここが不自然なんだ。押し入れの上の空間なのだから、上がたとえ広くても幅は狭いはずだ。なのに、俺達は随分広い空間をうろうろしていた気がする。 
歩いていても何も無いのに飽きた俺とげんちーは、そろそろ降りようかと言う話になった。と、その時げんちーがふいに転んだ。

「いてて…」「大丈夫か?」「あ、うん………!?」 
にこやかな顔で返事をしていたげんちーの顔がみるみるうちに真っ青になった。なにかとんでもないものを見てしまったのかの様に。 
「よっちゃん!早くここ出るぞ!!」 
「どうしたんだよ。そんな急ぐ事も…」 
「この黒いやつ、ぜんぶお経なんだよ!!」 
おれはそれを聞いて途端にぞおっとした。前にも書いたがげんちーの家はお寺さんで、げんちーはお父さんに 
遊び半分でお経を読む練習をさせてもらっていたのだ。それで、多少のお経は読める。 
そのげんちーが読めるお経が、この部屋の壁天井床いっぱいに書れていたのだ。 

「早く!出るぞ!!」 
げんちーの声で俺は我に帰った。今いる場所から扉までわずかちょっとの距離だったが、俺達は全速力で走った。ただもう、この黒い部屋から出たかった。 
扉を押し、椅子の上に降りて押し入れから大急ぎで出て、びしゃっと押し入れの戸を閉めた。少ししか走っていないのに、息があがっていた。 
「なんなんだよお、あれ……」 
「父ちゃんに聞いてみよ、なにか、分かるかもしれん」 
俺とげんちーは大急ぎで、げんちーのお父さんのお寺へと向かった。

「おとうさあん!!」 
名前を呼びげんちーのお父さんが出てくるなり、お父さんは「なにやってたんだお前ら!?」といきなり怒られて、
腕をぐいぐい引っ張られお寺の奥の部屋と連れられた。 
それから俺とげんちーは、服を脱がされ、背中に何か書かれて、冷たーい水を頭からかけられて、
首に数珠みたいなものを掛けられ、半日の間お経を唱えられた。その間、何度も水を掛けられた。 
儀式みたいなのが終わって、俺とげんちーはげんちーのお父さんに強い剣幕でこう言われた。 
「いいか、今日の事は忘れろ。思い出してもすぐに忘れるんだ」 
真剣な顔でそういわれ、俺とげんちーはこくこくとうなずいた。 
それから俺の母さんが迎えに来て、俺の事を涙ながらに抱きしめた。
おばあちゃんはただ、「よかったよかった」と涙を流すばかり。げんちーは自分の家に帰った。 

あれがあってから、近所の大人の人に俺はどうやらさけられている様に感じた。げんちーも同じく、さけられているようだった。 
忘れろと言われた為、また聞けばなにか起こるかもしれず、誰にも何も聞く訳にも行かず、何年もたった。 
げんちーとは今でも遊んだりする。でもあのことは絶対に口にはしない。お互い、分かっているのだ。 
この間、家に帰る機会がったのであの押し入れを覗いてみた。 
扉はあったものの、木と釘でめためたに打ち付けられてあった。もう入る度胸は無い。 END

前の話へ

次の話へ