モンチッチ

21 :もしもし、わたし名無しよ:2006/04/18(火) 02:51:26
何年前の話かは不明。

朝、アパートの部屋から降りて集合ポストを見ると、彼のポストに人形が入っていた。 
人形はモンチッチで、ポストの投入口から頭が出ている状態だったそうだ。 
彼というのは、その年に高校を卒業して実家の家業で働き始めたA。
Aは最初、地元に残った友人の仕業だと思ったらしい。
家業を手伝うとはいえ一人暮らしをしていたので、新居に友人を呼んで騒ぎあったりしていたからだ。 
女々しい奴だと思われるじゃんか、と苦笑しながら人形を引き抜くと、Aはなぜかゾッと悪寒を感じた。
背後を振り向いたり首を傾げながら、人形を気味悪く感じてしまったAは、人形をポストに仕舞って仕事に向かった。

三日後の日曜日、Aは友人Bの家に上がりこんで人形を見せた。
Bがやったか、誰がしたのか知っていると思ったが、Bは笑っただけで真相は知らなかった。 

最初の悪寒が頭から離れない彼は次第に気味が悪くなり、人形を部屋に帰るなりアパートの管理人に渡すことにした。
ひょっとしたら、単純に部屋番号を間違えてポストに入れたのかもしれないと説明して、
落し物扱いにしてもらったのだ。

Aと管理人はその後、友人知人に聞いて回ったが、人形について知っていると言う者は出てこない。 
早々に人形を手放したAは安心して、やがてこの事を忘れることにした。 

ところが、Aが人形の事を忘れすっかり冬になった頃、アパートで自殺が起こってしまった。 
死んだのは、Aの部屋と偶然にも同じ階に住んでいた女性だった。
Aは事件が起こるまで女性の事を知らなかったが、彼女は突然に躁鬱を患い、奇行も見られたらしい。
部屋はゴミと排泄物にまみれ、彼女は栄養失調が原因で急死。 
変化が急だったので、家族も対応が間に合わなかったそうだ。 

Aは嫌な不安感を隠し切れないでいた。 
というのも、女性の部屋の前には、花と共にモンチッチが幾つも供えてあったからだ。 
女性を惜しんだ人たちが供えたものなのに、ポストに入っていた人形に嫌でも結びついてしまうのだ。
野次馬のようで情けなかったが、住人に自殺の詳細を聞いて回ってしまう。 

そして悶々と不安を抱えたままのある朝、Aは本当に戦慄した。
Aの部屋のドアポストにモンチッチが挟まっていた。
あの時と同じ、頭だけを出して俯いている。
慌てて管理人の所に飛んでいったAは、溜まっていた不安感のせいで興奮してしまい、管理人も相当驚いたそうだ。
Aを落ち着かせた管理人は、
Aが渡されたモンチッチを落とし主不明のまま長く預かっていたので、うっかり女性にあげてしまった事を話しながら、
気味悪そうな顔になっていく。 

警察が家族の依頼で女性の部屋をよく調べたのだが、管理人があげたモンチッチにも奇行の跡があった。
外からは全くわからなかったそうなのだが、感触がおかしいのに気付いた鑑識が人形を解体したところ、
胴体部分に物が詰められていたのだ。 

黒く焦げたイモリの屍骸。
噛み跡のある剥がした爪。
錆びた釘。
人糞。
赤い模様のビー玉。 

それらが黄色い綿に包まれるようにして詰め込まれていた。
鑑識は、「稚拙な発想で、悪意と喜びを詰め込んだ様だった」と言ったそうだ。

Aの話が住人に広がり、Aは警察に怪しまれたが、警察がAの部屋を捜索するとドアポストに紙が入っていた。
『だめじゃないですか、作るの大変なんですから』
警察は指紋など証拠を集めて、Aではない男が人形を作ったものと立証した。 
男はAの高校の同級生で、警察にはAについてを嬉々として喋り続けた。
聞いても居ないのに、事実から妄想に至るまでAについて喋り続けたそうだ。 

結局、女性の自殺との因果関係までは立証されず、男が精神病に入院することで自体は収集したが、
その後男は病院を抜け出して行方不明になった。

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