533 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2013/04/08(月) 19:02:42.57 ID:HmoRQwfq0
親戚の話。 

幼少の時分、薪で風呂水を沸かすのが彼の仕事だった。 
裏山に干してある薪を母屋まで持っており、そこで割ってから火を点けていたのだという。 
竈の火を見ながら、よく昼間獲ったイナゴを竹串に刺して炙っていた。 
おやつ替わりに囓っていたのだという。

その日も何匹目かのイナゴを串に刺し、火の中へ突っ込んだところ、いきなりグイと強い力で引かれた。 
「あっ」と思う間もなく、イナゴは竹串ごと竈の中へ引きずり込まれた。 
しばらく火を睨んでいたが、別に何の異常もなかった。 
しかし気味が悪くて、その日はそこでイナゴをつまむのを止めた。 
風呂は問題なく沸かせたということだ。 

「その後も何回か、竈にイナゴを盗られたよ。 
 でもまぁ、馴れちゃったというか、気にしなくなっていたな。 
 小学生に上がる頃には灯油の給湯器になったから、あの竈も潰してた。 
 あれって一体何だったのかな」 
彼は懐かしそうな顔でこの話をしてくれた。

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