ある夫婦の話

717 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :04/04/17 22:39 ID:C2aTo/nv
この話は、わたしが入院していたとき、親しくなった看護婦さんから聞いた、ある夫婦の話をまとめたものです。
名前は仮名です。

夫の正志は病院の新生児室の前で頭を抱えていた・・・・・・・・。
また男だったのだ。
妻の雅子がいましがた生んだ子供がである。
雅子はまだこのことを知らない。
出産時の痛みで気を失い、今は、ベットに寝かされている。

正志の頭の中で「このまま言ってしまえ」と、考えがまとまりかけたことも、この一時間ほどの間に何度かあった。
しかし、そのたびにあの両手に小さく冷たい死骸を抱えた感覚がよみがえる。
もうあんな思いはしたくなかった。

妻の雅子は資産家の娘だった。
正志は地元企業の幹部候補、皆に祝福され、うらやまれる結婚だった。
交際は半年とそう長くもない、むりろ短いくらいだったが、雅子の両親が結婚に積極的だったこともあり、そういう運びになった。
正志も悪い気はしなかった。
資産家の一人娘で美人の雅子と結婚できるのである。

しかし、正志のそんな思いは、結婚後そう時間がたたないうちに変わりはじめる。
雅子の奇行が目立ちはじめたのだ。
はじめは、熱帯魚の水槽だった。
正志の趣味で飼っていたものだったが、雅子は自分の与えた餌を食べなかったことに腹を立てて、魚を鍋で煮て殺したのだ。
問いつめると、微笑みながら「だって、生意気だったんだもん」と答えた雅子。
今考えれば、あのときに気付くべきだったのだ。

雅子の無邪気な殺意は対象を選ばなかった。
花を咲かせない植木、吠えすぎる犬、気に入らない生き物を殺すには、理由はいらないようだった。
そして、それが自分の子供に向けられたのは、自然なことだったのかもしれない。

二人の間には子供がいない。
しかし、雅子も正志も生殖機能に問題はなかった。
結婚してから10年、二人の子供にも恵まれていた。
しかし、生後9ヶ月で
二人とも死んでいる。
一人は乳幼児突然死症候群、もう一人は洗濯機に落ちたことでの事故死だ。

正確には、そういうことになっている。
本当は雅子が殺したのだ。
「女の子の服が着せられないから」
それだけの理由で雅子は二人の赤ん坊を殺したのだ。
死亡理由は、知り合いの医者に金を握らせて擬装した。
そして、また今、男の子が生まれてしまった。
正志は雅子が数ヶ月後におこすであろう殺人が目に見えていた。
あの医者は言っていた。
「もう、次はごまかせませんよ」と。

正志に選択肢はなかった。
あらかじめ買ってあったナイフを手に新生児室にはいる。
生まれたばかりの子供にかけられたタオルをはぎとり、小さな股間のものに刃をあてると、いっきに引いた。
悲鳴が赤ん坊の口からあふれだす。

前の話へ

次の話へ