はぐれる

211 雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM sage 2013/09/09(月) 18:34:46.11 ID:3e/ol92f0

知り合いの話。 

親戚と二人で山菜採りに出かけたところ、折からの深い霧ではぐれてしまった。 
「おーい」と大声で呼びながら探し続けるうち、霧の向こうから「おーい」と応えが 
返ってきた。 
やっと見つけられたと喜んで、「おーい」「おーい」と互いに呼び合いながら距離を 
詰めていき、ようやく大きな木の下で落ち合えた。 
しかしそこで出会った者は、はぐれた親戚ではなかった。 

霧を割って姿を現したのは、藁製の蓑を身に付けた一つ目の大男だった。 
こちらも仰天したがあちらも負けず驚いている様子で、しばらくお見合いしてしまう。 

やがて一つ目が口を開いた。 
訛りが酷く聞き取りも容易でなかったが、何とか意思の疏通が出来たらしい。 
「どうやらお互いに、相手を間違えちまったようだナ」 
深く息を吐いてから続ける。 
「この奥にはもう足踏み入れんナ。儂ももう、こっから先は行かんけン。 
 お互イのハスミ(?)じゃあねえから、戻れんようになるゾ。 
 お前さんも探し人が見つかると良いノ」 

そう述べた後、一つ目は霧の奥に戻って行く。微かな呟きが耳に届いた。 
「こうなシバイ(?)日にゃ、イタケ(?)なキモ(?)と出会うちゅうが、いやいや……」 
訳のわからない単語混じりだが、言っていることの意味は何となく理解出来た。 
急に場違いな領域に侵入した気がして、慌てて元来た方へ足を戻す。 

それからしばらくして、親戚とは無事に再会できた。 
しかし山を無事に下りるまでは、一つ目の話はしなかったそうだ。 

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