氷の魚

583 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ sage 2012/06/21(木) 18:17:01.38 ID:Ru3dtsTD0
知り合いの話。 

彼の祖父はかつて猟師をしていたという。 
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。 

「寒い冬の日にはよ、氷の張った淵でよく釣りをしたな。 
 専らワカサギやらオイカワを狙ってたんだが、時々妙な魚が釣れた。 
 形は変わってて全体的に丸まっちいんだが、これが綺麗に透き通ってたんだ。 
 目玉が一番濃くて、骨とか腸なんかも薄っすらだが見えてたな」 

「コイツがよ、鍋で煮たら溶けて失くなっちまうんだわ。 
 影も形も残らねえが、煮ていた湯には粘りが出て、確かに魚の味がする。 
 粘ったのをズルズルと啜ってたんだが、これが大層美味くてな。 
 儂らはこの魚のことを、“氷の魚”と呼んどったよ」 

「食った奴らは儂を含めて皆長生きしとるから、体には良かったんだろうよ」 
そう言って祖父さんはニコニコしていた。 

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