朝が早い男

233 全裸隊 ◆CH99uyNUDE sage 2012/06/09(土) 00:18:11.87 ID:aHx7E6ui0
連休の山小屋には色々な客がいる。 
相部屋になったのは外国人、高校生、若い会社員と 
珍しい取り合わせだった。 

夕飯を食い、部屋に戻って皆で話しているうちに 
俺は眠ってしまい、夜中にトイレへ行きたくて 
目を覚ました。 

トイレは部屋を出て廊下の先の方にある。 
廊下へ出て玄関を通りかかると、相部屋の会社員が 
背中を丸めて出発の準備をしている。 

午前2時。 
早いねと声をかけ、小声で話し、その日の行動予定と 
目的地を聞いた。 
やがて靴を履き終え、ザックを背負い、ヘッドランプを 
つけ、彼は出かけていった。 

暗い部屋に戻り、ベッドに目をやると、そこには 
今出かけたばかりの彼が寝ている。 
声が出そうになり、不思議に思い、声をかけようかと 
少し迷い、結局そのまま俺は自分のベッドに戻った。 
朝起きると彼の荷物はベッドの上にある。 
食堂へ行き、彼の正面に座った。 
飯を食いながら、夜中の2時に彼を見送ったことを話した。 

彼は俺の話を最後まで聞き、ふぅん、と呟いた。 
たまに聞くんですよ、その話。 
山で自分が夜中に出かけたって話です。 

何が起こっているのだろう。 
俺は勿論、彼にも分からない。 

ただね、と彼は言う。 
たぶん今日と明日はここから動けないんですよ。 
理由を訊ねる俺に、彼は靴が無いからだと言った。 

服も荷物も全部残っているのに、靴だけが消えるらしい。 
で、翌日か翌々日の朝になると靴が玄関に戻ってくる。 
どこを歩くのか、毎度びっくりするほど汚れた靴が玄関に 
ちょこんと置かれているという。
出かける自分と鉢合わせしたことは? 
それがないんですよねえ。 
口惜しいのは、その日は絶対に晴れるってことです。 
それと泊りが延びるから、余計な宿代ね。 
彼は笑った。 

朝食後、俺は彼に見送られて小屋を出た。 
見上げるだけで頬がゆるむような晴天。 
もうひとりの彼はきっとご機嫌だろうなと思い、俺は歩き出した。 

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