溺れる子供

926 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ sage 2012/07/03(火) 18:47:10.16 ID:yhSyC/420
友人の話。 

山中の野池へ、仲間と二人でバス釣りに出かけた。 
ボートを出して池の中ほどで楽しんでいると、視界の外れで動く影がある。 
子供が溺れていた。必死の形相で手を振っている。 

「おい、アレ!」 
連れもそれに気がつき、慌ててボートをそちらに回す。 
エンジン全開で水上を走り、子供まであと少しという所で―。 
ドン!という衝撃が船底を襲い、二人してボートの外に投げ出された。 

ボートは浅い砂洲に乗り上げていた。 
一瞬溺れるかと焦ったが、足が水底に着くことを確認して落ち着く。 
何とか立ち上がってみると、水は脛下までの深さしかなかった。 

「大丈夫か?」という連れの声で我に返り、子供の方に目を向けた。 
つい先までそこで足掻いていた筈の姿がどこにもない。 
水面は凪いでいて、浅い底が透けて見えていた。 

冷静になってみると、色々とおかしな点に気が付き、連れに確認する。 

「そう言えばさ、お前はあの子の悲鳴っていうか声、聞こえた?」 
「あ・・・あぁ、誰の声も聞こえてなかった」 
「今思えば、水がバシャバシャ跳ねる音も、全然聞いてないんだよね」 

「「・・・今見たのはまともな子じゃないぞ・・・」」 
必死でボートを深瀬に押しやり、そこから逃げ出した。 
岸に這い上るとその日はそこで終わることにする。 
その後しばらく、その野池には近よらなかったそうだ。 

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