藪の中

416 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ sage 2012/11/23(金) 17:30:52.21 ID:4MUbGXz30
山仲間の話。 

単独で入山中に、不思議な光景に出会した。 
行く手の繁みの中で男性が二人、藪漕ぎしながら歩いているのだが、 
ある程度進むとくるりと踵を返してから、元来た藪中を戻っていく。 
そのまま50メートルほど戻ると、そこでまた180度回転し、 
再びこちらへ向かって進んでくる。 

その二人組は、そんなことを何度も繰り返していたのだ。 
顰め面が見て取れるほどに近よってみたが、向こう側は彼のことが 
目に入らないようで、気が付きもしない様子。 

「あのー、何をしているんですか?」 

流石に気になってそう声を掛けると、吃驚した顔で立ち止まった。 
二人して安堵の息を吐きながら、こんなことを口に出す。 

「あぁ良かった、人に逢えた。 
 僕ら、実は昨日からずっと道に迷ってて・・・。 
 ここがどこかわかりますか?」 

「いや、あなた方、ずっとそこでグルグル行ったり来たりを繰り返して 
 いたんですけど?」 

そう指摘された二人は、彼にからかわれたものと思ったらしく、 
「何を言ってるんですかぁ」と苦笑しながらこちらに向かってきた。 

いきなり、前を歩いていた方が立ち止まった。 
ギョッとした顔で足下を見つめている。 

「ここ・・・昨晩僕らがテントを張った場所だ。 
 このペグの痕、見覚えがある。 
 ・・・嘘だろ、ここから半日以上は歩いている筈だぞ」 

そう呟くと顔を上げ、あれ?っという表情になる。 

「何だ、ここ、○○峠に下りる途中道じゃないか!!」 

「・・・本当だ。今まで嫌と言うほど通っているのに。 
 どうして気が付かなかったんだろう?」 

どうやら後ろの男性も、現在地の特定が出来たらしい。 
二人して顔を見合わせて、頻りに首を傾げている。 

丁度、下りる先が同じだったので、彼も二人に同行することにした。 
問題なく下山出来て、礼を言ってくる二人に別れを告げたのだという。 
「あの二人組、揃って狐にでも騙されたのかね?」 
そんなことを考えたそうだ。 

しかしその三年後、彼もその藪で道に迷い、別の登山者に助けられた。 
道を失ったのは、正にあの藪の中であったという。 

「・・・あそこの藪って、何かヤバいモノでも潜んでいるのかな・・・」 

以来、彼はそこの道を利用しないようにしているそうだ。 


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