ご神木と山神様

468 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ sage New! 2012/11/28(水) 19:24:21.57 ID:5cxupuHR0
知り合いの話。 

彼の祖父はかつて猟師をしていたという。 
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。 

「ある淵近くの河原で、連れと二人休んでた時の話だ。 
 真夜中、その連れがいきなり暴れ始めよった。 
 どうした!?って駆けよったら、身体の横に小柄な猿のようなモノが取り憑いてる。 
 黒い手を伸ばして、連れの手首を握ってた。 
 大慌てて突き飛ばしたんだが、そいつ今度は儂の腕を握ってきやがった。 
 握られた途端、視界が霞んで息が詰まってよ、もうパニック起こしまくったわ。 
 目鼻口が、一気に水で溢れたんだな」 

「後で考えると、大方儂自身の涙や鼻水だったんだろうが、そん時は必死でそんなこと 
 考えるどころじゃなかった。 
 儂にしてみりゃ、水の中に顔沈められたようなモンで、あん時はそのまま溺れ死ぬかと 
 本気でビビッたわい」 

「幸い、復活した連れが儂からそいつを引っぺがしてくれて、何とか息が吐けた。 
 二人がかりで焚き付けや棒ッキレを持って、死に物狂いで追いかけ回したよ。 
 猿ほどの大きさしかなかったんじゃが、これがまたすばしっこくて、おまけに触られると 
 こっちはたちまち溺れちまうときた。 
 立ち向かうのにえらく苦労したよ」 

「それでも何とか散々叩きまくって、ようやくそいつが逃げ出したんだ。 
 暗い河原をタタタッて走り去ってから、ドポーンと淵に飛び込む音がした。 
 それっきり静かになったんだが・・・とても淵を覗き込む気力が沸いてこなくてよ。 
 二人揃って寝ずに朝まで過ごすことにした。 
 火を起こすと、お互いあまりにも情けない顔してたんで、それでまた疲れたな。 
 儂も連れの奴も、涙と鼻水と涎を垂れ流しまくりのこぼしまくりだったから。 
 それからはもう朝まで何も出て来んかった。 
 日が昇ると、直ぐにそこを引き払ったわい」 

「話に聞くところの“川猿”とか“淵猿”って奴だったかもしれねえな。 
 何でも毛の生えた河童みたいなモンらしいが、あんな化け物に水ン中で捕まえられたら、 
 そりゃ何も抵抗できずに引き摺り込まれるだろうと思ったよ」 

「河童の類ってのは怖えぞ」 
祖父さんはそう痛感して、それ以降家族が水遊びに出掛ける時には、くどいほどに注意 
するようになったのだそうだ。 

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