藁編みの神様

602 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ sage 2013/01/12(土) 20:32:23.78 ID:wGmrCVnW0
知り合いの話。 

夫の実家である山村に里帰りしていると、夜中に土間の方で何やら物音がする。 
明かりを点けて見に行ったが、寒い土間はシンと静まりかえったままだ。 
首を傾げながら寝間に戻った。 

翌朝、目を覚ましてから土間へ行くと、真新しい藁靴が置いてあった。 
雪靴とも呼ばれる深い造りの靴で、頑丈でしっかりとした見事な出来だ。 
義父によると、時々こういうことがあるのだという。 
「夜中に土間で音がしたら、その翌日には深靴が一足拵えてあるんだ。 
 見ての通りの良い出来だから、昔は本当にありがたかったんだよ。 
 でも最近はもっと良い製品が出てきたから、もう使わないんだけどな。 
 感謝してるから、今でも神棚にお供えは欠かさないんだ」 

「不思議なこともあるものね、靴作りの小人さんでもいるのかしら」 
子供の玩具にされている藁靴を見ながら、そんなことを考えたそうだ。 

その年は実家を発つ時、うっかりと子供の本を忘れてしまった。 
ウルトラマンの怪獣図鑑だった。 

次に里帰りした折、奇妙な藁細工を見せられたという。 
藁で編み込まれた人形が二、三体。 
一目であの図鑑に載っていた怪獣だと判断できる、これも見事な出来だった。 

「孫があの本を忘れていってから、こんなおかしなバリエーションが増えたよ。 
 藁編みの神様、創造意欲みたいなもんを掻き立てられたのかね。 
 ひょっとしたら、靴や草履ばかり作るのにも飽き飽きしていたのかもな」 
義父は苦笑しながらそう言っていたそうだ。 

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