森の奥のラジオ体操

276 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ sage New! 2013/08/09(金) 19:56:12.96 ID:L3hbmMFa0
友人の話。 

子供の頃、毎年夏になると、家族で山奥の避暑地に逗留していたという。 
涼しくて彼のお気に入りな過ごし方だったのだが、一つだけ気になることがあった。 

毎朝毎朝、誰もいない筈の森の奥から、ラジオ体操の音楽が流れてくる。 
その森は道など付いておらず、下生えを分けて足を踏み入れるのも大変な場所だった。 
両親に聞いてみたが、 
「物好きな誰かが森で体操しているんだろう」程度にしか考えていない様子。 

正体を明らかにしてやろうと、苦労しながら森の奥へ足を運んでみたところ、 
どれだけ歩いても音源には近寄れない。 
それどころか、まるで彼から逃げているかのように、段々と小さくなっていく。 
結局、何処で誰が体操しているのかを知ることは適わなかったそうだ。 

現在、彼の家はその別荘を手放しているという。 
「ラジオ体操の歌、今でもあの森で流れているのかなぁ」 
懐かしそうに目を細めながら、彼はそう言っていた。  

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