カブソ

275 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ sage New! 2013/08/09(金) 19:54:53.53 ID:L3hbmMFa0
知り合いの話。 

山中を軽トラで流していると、行く手に襤褸切れのような物が落ちている。 
毛布のようだ。どこかの作業車から落ちた物だろうか。 
片そうと路肩に停車し、車を降りた。 

近よってみると、何となく布ではないような印象。少し生臭い。 
「……あ、ペチャンコになった動物の轢死体か?」 
そう考えながら傍にしゃがみ込んだ途端、襤褸はムクリと起き上がった。 
下になっていた側から、犬のものらしき口が剥き出しにされて迫ってくる。 
欠けた牙の間から、紫色の舌がだらしなく垂れていた。 
顎から上は削ぎ落とされたかのように失くなっている 

思わず飛び退ると、起き上がった時と同様、唐突にそれはペシャリと潰れた。 
先ほどの印象も幻のように掻き消え、もうどこをどう見ても、古びてほつれた 
毛布にしか見えなくなっていた。 
恐る恐る持ち上げると、間違いなく確かに古毛布だ。 
先ほど見た口は何だったのか。いくら考えても答えは出なかった。 

後日、近所の老人から「それはカブソだろう」と教えられた。 
正体は皆目不明だが、昔からあの山に出て人を化かすモノであるらしい。 

「化かされたって話はよく聞くけど、実際にやられると本当にビビルぞ」 
彼はそう力説していた。 

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