何者かの気配

866 名前:1/2 :03/04/11 12:56
今住んでるアパートに引っ越してきて、しばらくたった頃。 
失意の転居だったせいか、毎日気持ちが不安定だった。 
そのせいか、毎晩あまり寝られなくて、何度も何度も夜中に 
目が覚めて…なんてことが続いた。 

そんなある夜、ふと目を覚ましたら居間のドア付近で何か気配がする。 
誰かドアを開けて入ってきて、そこから寝ているあたしを見ているような。 
あたしは目をつぶったままなんだけれど、確実に気配を感じた。 
「気のせい。気のせい。疲れてるだけ。」そう自分に言い聞かせた。 

だけどそれから、その気配を一晩おきぐらいに感じた。 
余計寝られない日が続く。 

そしてある日、また気配がした。 
誰もいるはずのないドアを開け、またこちらを見ている。 
ドアに背を向けた状態で横になっていたあたしは 
思い切って、その気配を見てやろうと体の向きをそちらへ変えた。 

目に入ってきたのは、 
紺のチェックの部屋着を着て、長い髪を下ろして 
首を少し右に傾けこちらを見ている女だった。 

そのとき、気づいた。 
女はあたしがその日着ていた部屋着と同じものを着ていることに。 
そしてなにより、 
その女自体が、あたし本人だったのだ。 
あたしを毎晩怖がらせて、苦しめていたのは、自分自身だった。 

それっきり、真夜中に何かの気配に起こされることはなくなった。 

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