巡察箱
334 名前:陸自(現職) ◆7bKeljT8EE :03/03/22 23:50
とある弾薬補給処での話です。
そこの補給処は元からいる隊員の数が少なく、あちらこちらの部隊から
定期的に警備のものが編成されて任務に就きます。
その日は雨でした。
夜間体制に移行した私達の哨舎には、司令を除いて数人しか起きていませんでした。
先輩の歩哨係が言いました。
「なぁ・・・、いきなりで悪いんだけど、○○号弾薬庫の巡察一緒に行ってくんない?」
「えっ・・・」と、私。
先輩は続けました。
「いや、分かってるって。嫌だよなぁ、自殺者の出た所に深夜の1時に行くなんて・・・」
「仕方ないんでしょ。いいですよ、ご一緒しますよ」
シフトの関係で、今行っておかないと巡察に行けなくなる事を、知っていた私は
引き受けてしまいました。
大粒の雨の降る中、合羽がわりの外被というパーカーのような物を身に着け、
ジープを走らせてモノの3分もせずに、目的地の弾薬庫に到着しました。
入口のフェンスのカギを開け、歩く事150メートルほど先にある弾薬庫の前まで行きました。
当の本人、先輩はジープに乗ったまま、ハイビームにして道を照らしていました。
二つ、並行にならんだ入口の奥側に巡察箱があり、そこに時間と点検者の氏名階級を
記入せねばならず、急ぎ足で巡察箱に向かい施錠の有無を確認した後、必要事項を記入しました。
「別段、おかしな事も起きなかったな」
と、私がジープの元に帰ろうと踵を返した途端、「ターーーーン」という大きな音を立てて
巡察箱が床に転がりました。
逃げ出したい気持ちでいっぱいでしたが、雨水に記入用紙が濡れてしまうのが気になって
そのままにしておけず、壁の釘に巡察箱を再び取り付けようとしたのですが、何故か付きません。
確認しようと、懐中電灯で釘を照らした私は、思わず巡察箱を床に投げ出したままジープに
向かって走り出してしまいました。
車で、のほほんと待っていた先輩が、あまりの様子に何事かと聞いて来るので先程の出来事を
話しました。
「偶然だろ。錆びて折れたんだよ、きっと」
簡単に言ってのける先輩に、私は首を振ってこういいました。
「何かでスパッと切ったかのように、釘が切れていました。」
しばらく無言だった2人は、逃げるようにその場を離れたのは、言うまでもありません。