かまくら

80 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :03/02/18 23:37
もしガイシュツだったら勘弁だぞ。 
 ある男(仮にAとする)が人気のない山の中をさ迷い歩いていた。 
ちょっとしたはずみで道に迷い、もう半日。季節は冬、かなりあせって 
いた。木立の中をふと気付くと何と…かまくらのようなものが見える。 
『こんなひと気のない山奥でかまくらとは…』Aは不思議に思ったが、 
疲れ果ててもいたし、恐る恐る近寄った。そばに来て覗き込むと、 
半纏のようなものを着込み、男が一人、中に座っている。何やら昔の 
書生めいた風情だ。こちらに気付くと中の男はにこりと笑ってきた。 
『やあ、ちょっと寄って行きませんか』Aが何も言わずにいると、 
『ちょっとした宴会気分ですよ。ほら』と湯気の立つ日本酒や、 
なかなかうまそうな料理を指し示した。とにかく不思議だったが、 
それを見たらもうダメだった。『いいんですか』 
 そう聞くと『ええ。どうぞどうぞ』という声に迎えられ、Aは 
かまくらの中に入ってみた。暖かな食べ物をあてがわれ、ようやく 
一息つけた。 
 かまくらの男は『あっと、炭がきれそうだ。ちょっと失礼』 
そう言ってAの前を横切って外に出た。次の瞬間、『ハーーッ.. 
ハーーッ』っと荒く息をついた。『やった、やった。出れた』 
事情がわからずぽかんとするAに向かって男は言った。 
 『私はこの中で80年過ごしたのです。どうやら代わりの人がいないと 
外には出れないらしい。前回はもう20年以上前だった。あの時に 
失敗してから、どれほど機会を待っていたか』信じられない思いで、 
Aが表に出ようとすると、透明な壁に阻まれて叶わなかった。 
 『悪く思わないで下さい。あなたも身代わりを見つけて下さい。 
それでは』それだけ言うと、まだ呆然としているAを残して男は 
足早に去って行った。  

…ほんのり、というかかなり怖かったんだけど、自分としては! 

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