真っ暗で何にも見えない

98 :本当にあった怖い名無し[sage] :2009/11/10(火) 18:07:52 ID:T+xRaB/V0
今まとめサイト読んでて思い出した話です。 
長くなりますので、苦手な方はスルーでお願いします。
中学二年か三年くらいの頃の夏だったと思います。 
その頃は、暑さで寝苦しかったせいなのか、友人関係のことで悩んでいたせいなのか、 
不眠症のようになっていたのを覚えています。必ず明け方に目が覚めるんです。 
それで「また目が覚めちゃったな」なんて思いながら暗い部屋の中でじっと天井を見つめているんです。 
ちょっと恥ずかしい話ですが、その時はかなり小さいアパートに住んでいて、親と同じ和室の部屋に 
布団を敷いて寝ていました。夏は襖を取り払って隣の部屋とつなげて風通しを良くして使っていました。 
それで、眠れずにじっとしていると、アパートの階段を上る音が聞こえてきて「来たな」
と思っていると、うちの玄関のところでガタンッという大きな音がして、足音が去っていきます。 
新聞が郵便受けに入れられた音です。四時だか五時だか確認した事がなかったのでわかりませんが、 
それぐらいの時間に目が覚めていたのだと思います。初めて配達の人の足音と新聞が郵便受けに入った 
音を聞いたときは、泥棒が来たのかと思ってびくびくしたのですが、すぐに新聞配達だと気づいたので、 
いつも「もうそんな時間なのかあ」などと思いながら聞いていました。 
その日も、夜中だか早朝だか分からない時間に目が覚めてぼんやりしていました。 
じーっと静かにしていると、足音が聞こえてきます。「ああ、もうすぐ朝だ」とかいうふうに 
思って聞いていました。

足音はうちの前まで来て、ちょっと止まります。それで「新聞を入れるな」なんて郵便受けの音がするのを 
待ってたんですが、その時はいつもと少し違いました。「バンッ!」というような、床にとても重たいものを 
思い切り投げつけたような音がしたんです。私はびくっとして体を硬くしました。聞こえ方からすると、 
玄関の横の台所の床に誰かが飛び降りたような感じだったからです。台所の流しのところには通路に面して 
窓があって、そこから今度こそ泥棒が入ったんだと思ったんです。 
隣の親を起こそうかとか、気づかれたら殺されるんじゃないかとか、恐怖と緊張で頭が混乱していましたが、 
そのときの私はとにかく寝たふりで乗り切ろうとしていました。今考えると馬鹿ですね。
そうして、体を動かさずに、一応薄目を開けて様子を伺っていると、台所のほうを歩き回るしとしとという 
足音が聞こえてきました。きっと金目の物を探しているんだ、あーやっぱり泥棒なんだ、もう人生お終いかも知れない 
と私は変な覚悟をしていました。でも、泥棒にしては少し様子がおかしいんです。しとしとと台所をうろつく 
音は聞こえても、戸棚を開けたり閉めたりする音が全く聞こえてこないんです。それに物凄く足音が小さいんです。 
静かな部屋の中で私が息を潜めてやっと聞こえるくらいでした。いくら相手は泥棒で足音を立てないように 
気をつけているといっても、男の人は足そのものが大きくて体重も重いですから、それなりの重みのある 
足音になると思うんです。なのに聞こえてくるのは、体重がかなり軽そうな、足の小さそうな足音でした。 
ですがこれはあとになって気づいた事なので、その時は怖くて怖くてたまりませんでした。

私は隣の部屋側に足を向けて寝ていて、隣の部屋から台所のほうへと通じるドアも開け放してあったので、 
薄目を開けてそちらを見ていました。やはり、足音はドアのほうに近づいてきます。そして今度は隣の部屋で 
しとしとと動き回る足音が聞こえてきました。私は薄目ながらも必死で目を凝らして探しました。けれど、 
目の前で足音はしているのに、全く姿が見えません。部屋は暗いですけど、カーテンの隙間から月の明かりが 
入ってきてましたから、真っ暗闇ではありませんでした。なのに足音しか聞こえませんでした。 
私は「幽霊だ!」と思って息も出来ませんでした。息をすると幽霊に見つかって襲い掛かってこられると 
思ったからです。その時、ぴたっと足音が止まりました。そして若い女の人の声でこう言うのが聞こえました。 
「真っ暗で何にも見えない」 
私はえっと思いました。ほとんど感情のこもっていない、ぼそっとした言い方でした。 
それっきり足音はしませんでした。

何年か経って、私にも彼氏が出来ると、夜遅くまでデートを楽しんだりするようになりました。 
その日はどこか夜景でも見て帰ってきたんだと思います。家に着くともう親は寝ているようでした。 
鍵を開けて家に入ると、ヒールの高めの靴を履いて疲れていた私はよたよたと歩いて、暗い中を半分手探りで 
移動しました。そして台所から隣の部屋に入ると、電気をつけようとしたのですが、暗くてスイッチの場所が分かりません。 
それでぽろっとこぼれるように言ってしまったんです。 
「真っ暗で何にも見えない」 
その時にあっと思いました。 
何年も前の事だったのに、あの夏の夜のことが一編に思い出されて、何もかもつじつまが合いました。 
あの時に聞いた女の声は自分の声だったんだ。 
そう思うと、妙に納得して、感動して、不思議な気持ちになったのを覚えています。 
他の人からしたら、夢じゃないのって感じかもしれませんが、その町に住んでた頃は不思議な事が 
家以外でも起きてたので、これは絶対夢じゃないって思っています。

前の話へ

次の話へ