倉庫会社の休憩室



694 名前:長文1/4 :03/02/12 12:27
3年ほど前の事です。

当時、私は倉庫会社の配送担当をしていました。
その日は、仕事が終わってから仲間と一緒に飲みに行き、
その後2軒3軒と飲み歩くうちに、気が付くと終電は無くなっていました。
翌日は早朝から積み込みと配送があったので、
私は会社に泊まることにしました。
倉庫の横にある事務所の2階に休憩室があり、
早番や遅番のドライバーは、そこで仮眠を取ることが良くありました。
ただ、深夜には「出る」という噂があって、
そこで夜を明かす人はほとんどいませんでした。
その噂のことは知っていたのですが、
生まれてこの方、怪異などとは縁がなく、まるっきり心霊音痴だった私は、
かなり酔っていたせいもあって、あまり深く考えることもなく、
休憩室の畳の上で横になるとすぐに眠ってしまいました。

どれぐらい眠っていたのか、私は電話の音で目が覚めました。
ピリリリリッピリリリリッ
事務所の電話が鳴っています。
(こんな夜中に誰だろう?)
そう思いながらも、起きるのが面倒臭かったので放っておきました。

しかし、電話は執拗に鳴り続けました。
ピリリリリッピリリリリッ
ボリュームが最大に設定してあるせいか、物凄くうるさい。
いい加減うんざりして、身を起こそうとした時、
ドンドンドンッ!
1階にある事務所の入り口のドアが叩かれる音がしました。
不審に思って動作を止め、耳を澄ますと、
今度はドアを引っ掻くような音がします。
ガリ・・ガリ・ガリ・・・ガリ・・・
何だか怖くなって、私は畳の上に半身を起こしたまま息を潜めていました。
ピリ・・・・・
と、不意に鳴り続けていた電話の呼び出し音が止みました。
同時に、ドアの物音もしなくなりました。
すると今度は、ぼそぼそと人の声がします。
ドアの外で誰かが喋っているようですが、話の内容はわかりません。
何が起きているのか全くわかりませんでしたが、ひどく嫌な予感がしたので、
私は耳だけに神経を集中して、物音を立てないようにジッとしていました。
話し声は断続的に、ぼそり、ぼそり、と聞こえてきます。
複数の男の声のように思えました。
やがて、女の声が加わるとすぐに声は止み、周囲には静けさが戻ってきました。

何が何だか良くわからないまま、しばらくは様子を伺っていましたが、
そのうち、張りつめていた気が緩んだのか、いつしか私は眠ってしまいました。 

次の日、私は早朝に目を覚まし、倉庫側のドアから倉庫に入り、
一人で積み込み作業をしていました。
すると、事務所の入り口の辺りに人が集まっているのが見えました。
作業の手を止めて行ってみると、
昨日物音がしていたドアに引っ掻いたような傷が残っています。
「空き巣狙いなんじゃないのか?」
私の話を聞いた部長がそう言って、一応警察に連絡することになりました。

夕方、配送を終えて事務所へ戻ると、
私の顔を見た部長が、警察へ行ってくれ、と言い出しました。
「今日、近所で倉庫荒らしが捕まったらしいんだが、その関連で昨日の話が聞
きたいそうだ。」
私は部長の車で警察に行くことになりました。

警察署では、簡単な事情聴取を受け、捕まった倉庫荒らしの話を聞きました。
警察によると、犯人は中国人の窃盗団だということでした。
彼らは、狙いを付けた倉庫会社に電話を入れて不在確認をし、
そのうえで、電話が鳴りっぱなしであれば、多少の物音を立てても
気にすることなく、工具でドアをこじ開けて中に侵入し、
金品を奪ってトンズラする、という手口で倉庫を荒らしていたそうです。
「万が一の時に備えて、奴ら拳銃も持っていたんです。」
取り調べの警官がそう言うのを聞いて、
あの日侵入してきた窃盗団に見つかっていたら、と思うとゾッとしました。 

続けて、警官が気になることを聞いてきました。
「昨夜、あなたは電話には出なかったとおっしゃいましたが、本当ですか?」
私が、はい、と答えると、警官はしばらく考え込むような素振りを見せてから、
こう語り始めました。

「・・あいつら、あなたの会社へかけた電話に誰かが出たと、そう言ってるん
ですよ。だから、ドアをこじ開けるのを止めて、様子を伺っていたらしいんで
すが・・・その時、そこで何があったのか、誰も話そうとしないんです。」
警官は、ちょっと困ったような顔で言いました。
「捕まった時には、あいつら、あなたの会社の近くに止めた車の中でブルブル
震えていたんですよ。大の男が4人揃って。どう考えてもおかしいでしょう。」
「男が4人・・・ですか。」
「ええ、一網打尽って訳でして。それについては、私らもホッとしておるんで
すがね・・・」

それで、私は昨日の事を思い出しました。
電話が切れた後、ドアの外にいたのは凶器を持った中国人の男達だった。
するとあの時、声がふっつりと止む直前に聞こえた女の声。
あれは誰の声だったんでしょう? 

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