鈴の音

76 本当にあった怖い名無し sage 2012/07/26(木) 01:18:44.48 ID:AOCEMBpp0
あまり怖くないかもしれないが俺の体験談を 

5年くらい前、名古屋のとある会社に勤めていたんだが、仕事の関係で1週間くらい東京に滞在することになった。 
22時くらいまで仕事してホテルに帰って風呂入って寝て、また翌朝出張先へってのを繰り返し。 
選んだホテルは適当に、出張先に近いのと、設備もよさそうだからとそれだけ。 
仕事自体は自分ひとりの出張だし重くない業務だし、まあのほほんとした気分で赴いた。 

1日目チェックインして部屋に入ったとき、別に何も感じなかった。そもそも自分は霊感ゼロだったし。 
ところが洗面所で手を洗っていると、鈴の音みたいなのがするのに気づいた。 
チリーン、チリーンって規則的に思えて規則的でない、鈴の音?金属の共鳴音がする。 

最初は洗面台の上のコップに響いてる音かなと思って、コップをどけてみたがまだ音がする。 
それじゃあ水を流すと配管か何かに響いて音がしてるのかな、程度に考えていた。 
ただ、音の出所がどうしても分からない。自分は結構耳がいいほうなんだが、その音がどこからしているのかわからない。 

2日目も3日目も、洗面台で水を流していると鈴の音がする。 
その頃気付いたのは、音がするのは水を流しているときだけ。水を止めると鈴も鳴り止む。 
そうなると自分も「ああ、配管に響いてるんだろうなー」と暢気に考えていた。 

4日目。仕事も順調で、その日は20時にはホテルに帰った。 
顔を洗っているとやっぱり音がする。 
「ああ、まだ配管おかしいのかな」って思って、顔を上げた。 
鏡に映っている自分の背後のドアの影から、人が覗いているように一瞬だけ見えた。 
ふっと振り返っても誰もいない。当たり前だが。 
そのときは何か疲れてるんだろうなーって思うだけだった。よく疲れていると、視界の端に白いぼんやりしたのが見えるだろ? 
それと同じだと思っていた。 
その後特に同じようなことがあるわけもなく、変わらないのは水を流すときに鈴の音が聞こえること。 

ところがホテルに泊まる最後の日、その日は仕事先の人と最後ってことでちょっと飲んだんだ。 
その後ほろ酔いで帰ってきてシャワーを浴びていた。そしてシャワーの水を流しているときに気付いた。 
今までは、洗面台の水を流しているときだけ聞こえた鈴の音が、今日はシャワーの水を流していても聞こえる。 

チリーン、チリーンって音は間隔を置いたと思えば、連続して鳴る。 
配管いかれてるんじゃねえのこのホテル、って思いながら何気に視線をシャワーカーテンのレールの上に上げた。 
真っ白い顔の女の人がうつろな視線で見ている。 
よくこういうときには怒っているとか悲しそうとか見かけるけど、そいつはぼんやりと焦点も定まっていない感じ。 
ただ、顔色が真っ白というか、真っ青に近かった。 

温かいシャワーを浴びてるのにぞわっと鳥肌が立って、シャワーカーテンを開いても誰もいない。 
改めてカーテンレールの上を見てもさっきの顔はなかった。 

ああ、こりゃやばいなーって思って、さっきまで飲んでた仕事先の人に電話。 
理由も告げずに「もうちょっと飲まねえ?」って言ったら、「いいですよー」ってことで早々にホテルを後にして夜明かし飲んだ。 
荷物は翌日朝に隠れるようにまとめて持っていった。 

まあそんなことがあって名古屋に戻り、何ヶ月かな?忘れたが、そろそろ忘れかけていた日。 
休日の昼間に起きるという駄目人間っぷりを発揮して、洗面所で顔を洗っていた。 

チリーン、チリーンって音が聞こえる。 
「え・・・」って思って、勝手を知る自分の家のコップを抑えてみたり、蛇口を押さえてみたり、 
棚を空けて配管を抑えてみたりしたけど音は収まらない。 

「いやいやいや、ねえよ・・・」って思って流しっぱなしの水を止めようと蛇口に手を伸ばした瞬間、 
家の外から、 

「やっと追いつきましたーーーー、覗ける場所があったらずっと覗きますよーーー」 

って、竿竹屋や灯油の移動販売みたいな、スピーカーから聞こえるような間延びしてぼんやりとした女の声がした。 
え・・・って思って鏡を見ると、洗面所と廊下をつなぐドアの隙間から、あの無表情な顔が覗いていて。 
あわててドアを閉めると鈴の音も収まった。 

それ以来、ずっと、ドアや窓、箪笥や戸棚さえも開けっ放しにはしないようにしている。 
「覗ける場所から覗く」ってことは「覗ける空間がなければいいんだ」と思うようにしている。 
それに気をつけるようになってから、あの鈴の音は聞いていない。 

兄貴(こちらも霊感はない。ただ妖怪の話が大好き)に話したら、「それ屏風覗きなんじゃねーの」って笑っていた。 
特に害はないらしいが、新婚の初夜を覗くのが趣味の妖怪が、なんで俺を覗いていたのかは謎のままだ。 

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