木目さん

814 :木目さん1[sage] :2009/09/13(日) 20:56:04 ID:82SJIEyu0
さて、不可解な話を一つ。 
昔、うちの便所はボットンだった。 
タイルの床に磨かれた木に囲まれた便所。屈むと目の前に木目があった。 
ちょうど目の高さになる木目、縦に長い木目が並んで二個、その下に真ん丸い木目が一つ。それがこの話の主人公だ。
ある朝、早く学校に行かないといけないのに、その日に限ってう○こが出ない。 
学校の便所でう○こをする=明日からあだ名は「う○こマン」 
それだけは避けたいので、力一杯踏ん張っていると、 
「おいおい、大丈夫か?」 
? どこからともなく声が聞こえた。トイレの外で誰か待っているのかと思って 
「ごめん、まだ時間掛かるかも。」 
と言ったが、返事はない。そんなこと言っている場合じゃない。もう一回踏ん張ると 
「これ、痔になるぞ。」 
声は目の前からした。 
木目? 前から目と口に見えてた木目のコレ? 
「落ち着いて踏ん張れ。」 
木目がしゃべった!? それよりも遅刻、もしくはう○こマンになるのは嫌なので、木目の 
アドバイス通り一呼吸置いて踏ん張った。 
すると不思議なくらいスルスルと出てきた。もう遅刻寸前だったので、とりあえず木目に
ありがとう!と一声掛けると尻を拭いて急いで出た。 
学校に着いて落ち着いてからよく考えると、この体験が不思議なことだ、と認識した。 
学校が終わるとすぐに家に帰り、トイレに入った。座り込んで木目とにらめっこしたが、
木目はうんともすんとも言わない。 
寝ぼけていたのかな? その日は何事もなく、夜、木目がいきなり声を出して怖がらせる
ようなこともなかった。

そして何日か経ったある朝。 
やっぱりう○こが出なくて踏ん張っていると、また木目がしゃべった。 
「また詰まったのか?」 
うん、出ない。どうしたらいい? 木目さん。 
いつの間にか自分でも「木目さん」と呼んでいた。 
木目さんは 
「落ち着け。ゆっくり息を吸って、息を止めた時に踏ん張るんだ。」 
と優しく教えてくれた。ちょっとダンディな声だったのを覚えている。
その日から何回か木目さんと朝話しをすることがあった。学校のこと、友達のこと、 
学校のトイレのこと等…木目さんは優しく「うん、うん」と聞いてくれた。家族は自分の
トイレの長いことに腹を立てていたが、自分は木目さんと話す貴重な時間を邪魔されたく
ないので、ちゃんと朝早く起き、自分で仕度をしてからトイレに篭った。

小学校高学年になり、中学生になる頃には木目さんとはあまり話をしなくなった。 
そして高校生になり、家を新築した。もちろん便所は水洗でお洒落な壁紙が貼ってある。
社会人になり出勤前に便所に入り、ふと木目さんのことを思い出した。 
今でもきっと木目さんはどこかの便所で、出なくて困っている子供を優しく見守っているのかもしれない、と。

長々失礼しました。

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