瓶コーラ

948:瓶コーラ:2011/08/29(月) 01:20:49.51 ID:d2yMAUg90
あんまり怖くは無いかもしれないけど、俺の体験談を上げておく。

俺は、プールや川では泳げる。
だが、海では泳げない。
これは、海嫌いな俺が、一昨年の夏、海に行った時の話。

海で泳げない理由は、俺が小さい頃にさかのぼる。
小学生の夏休み、この海で溺れたことがあった。
そして、一緒に泳いでいたAも溺れてしまった。

俺は助かったが、Aは死んでしまった。
Aは俺の親友だった。

情けない話だが、俺は必死すぎてその時の記憶が無い。
近くで泳いでいた大人が、俺たちを岸まで運んでくれたようだが、
それ以来、俺は海で泳げなくなってしまった。

溺れてからの数年は、プールにも入りたがらないほど水嫌いになってしまったので、
それから比べると少しは水嫌いを克服したのだが、それでもやっぱり、海では泳ぐことが出来ない。

でも、俺が海で泳げなくなった理由は、隣に居たAが死んでしまったからではない。
俺とAが岸に引き揚げられて病院に運ばれて処置が終わった後、
医者も看護師も揃って首をかしげていたらしい。

なぜなら、俺とAの足首には、揃って、誰かに握られたようなアザがついていたのだ。
しかも両足に。

普通は警察沙汰になるところだが、
パニックになった俺たち2人が、片方が沈もうとしては、
もう片方の足をつかんで浮き上がる、という行為を行った結果、
アザがついたのだろうと言う結論に至った。
しかしそれ以来、俺は、得体のしれない恐怖で、海で泳げなくなってしまった。

…俺は、それから夏になると毎年、この海で死んだAを弔うために、ここに来ているのだ。
もう大人になった俺は、車を運転して、一昨年も例年通り弔いに行って来た。

この海は、家から少し距離はあるが、地元でも知る人ぞ知る穴場のような海だ。
俺が海に着くと、まさに真夏の海と言う感じで、照りつける太陽。灼熱の浜辺。
だが、人影がほとんど見えない。
この時期になると徐々にクラゲが出てくるから、もう泳ごうとはしないのか。

俺は浜辺に座り、Aを思い出しながら、今となっては絶滅危惧種の、
当時好物だった瓶コーラの栓を2本開けた。
1本は俺に。そしてもう1本は、Aに。

Aとの思い出は、年を経るにつれて少しずつ薄れてきているけど、
それでも、彼女と遊んだ時間はかけがえのないものだった。

それから10分ほどしたころだったろうか。
視界の少し端の方に、何か動くものが映った。
見てみると、ほんの少し沖の方で、水面が激しく動き、水しぶきが立っている。

誰かが溺れている!!
そう確信した俺は、服を脱ぎ、下着1枚で海に飛び込んだ。
俺は、なぜか恐怖心は無かった。
あれほど、海で泳ぐことを嫌がっていたのに?

溺れている人のところまで、到達できる自信も無かった。
間に合う確証など、どこにもなかった。

だが、海で溺れることよりも、目の前で1人の命が失われようとしている。
あの時、俺は子供で、Aが溺れているのに、自分も横で溺れるだけで何も出来なかった。
これ以上、失いたくはない。

どう泳いだのかも良く覚えていない。
必死に泳ぎ続け、溺れている人のところに近づいた。
しかし、あと少しと言うところで、もがいていた腕が水面から姿を消した。

まずい!沈んだ!
そう思った瞬間、何かに足をつかまれる感覚があった。
そして、俺は海中へ沈んでしまった。

海の中では、俺の左足を何者かが掴んでいた。
海中で、そこまで鮮明には見えないが、少なくとも、生きている人では無いということは確信できた。

そいつは長髪でロングスカート(ワンピース?)を着ていた。
この服装で、沖まで海水浴などあろうはずもない。
その女は、何やら気味の悪い顔で笑っているようだ。

右足で蹴ったりして、必死に振り払おうとするも、女は俺の脚を離さない。
俺の息も続かなくなり、目の前に、徐々に死が広がってくるのが分かった。

もう、駄目だ…
その刹那、誰かが俺の腕を掴んだ気がした。

横を見ると、そこにはAが居た。
当時と同じ水着姿で、両手で俺の腕を掴んでいる。

Aは、にっこり笑っていた。
今、俺の左足を掴んでいる女とは、少し違った笑顔だ。
あの時の、俺と遊んでいたときの笑顔だ。

あぁ、A。お前か。
お前もだったのか。
最期に、会えてよかった…

そう思った瞬間、俺の体は海面へと浮き上がり、眩しい太陽の下に晒された。
もう、足を掴まれている感触は無い。
Aの姿も、見えない。
空気を肺いっぱいに吸い込み、俺はまだ生きているという感覚に不意に陥った。
何故か、泣いていた。

そして俺は、自力で浜辺まで泳ぎ着いた。
浜辺に上がってみると、掴まれていた左足、
そして、Aが掴んでくれていた腕にも、アザがついていた。

俺を助けてくれたのか…
Aに感謝しつつ、もう家に帰ろうと、浜辺に挿していた瓶コーラを見てみると、
Aの分のコーラが半分くらい減っていた。

また来るよ、A。

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