帰省

251:本当にあった怖い名無し:2008/09/21(日) 02:35:36 ID:gzt2z2Ip0
幽霊とかそういうのでてこないんでスレチな気もするけど、田舎に帰ったときの話。

大学卒業後、俺は田舎から大阪に出た。
休みには帰省しようと思いながらも、あまりの忙しさになかなか時間が取れない。
親は「無理しないでいい」と言うので、お言葉に甘えて結局1度も帰省しなかった。

年は経ち、さすがに仕事にも馴れて余裕ができたので、5年ぶりに実家に帰ることにした。
帰る旨を伝えると、なぜかカーチャン頑なに拒否。
おいおい、実の息子にそんなに会いたくないのかよ…
と思いつつ、俺も実家が恋しいわけで、しつこく食い下がる。

すると今度は、トーチャンが電話にでる。
『分かった。ただし、少し家の環境は変わってしまってな…正直あまり見せたくない』
リフォームでもして失敗でもしたのか?と思いつつ、
俺は「おkおk大丈夫だって」と言い電話を切った。

そしていざ帰省。
新幹線に揺られ、バスに乗り、電車乗り継ぎ…ようやく到着したなつかしの実家。
話とは違い、パッと見は全く変わってない我が家。あたり一面相変わらず田んぼと山だらけ。
トーチャンカーチャンは、電話での対応とは違い喜んでくれてた。
そしてもう1人、家には親以外にも兄がいた。
兄も就職して都会に出てるはずなのにどうして?と思ったが、俺は久々に兄に会えたことがうれしかった。

兄はいわゆる完璧超人で、顔も頭もよく人付き合いもいい。大手企業に就職、結婚もしている。
自慢の兄で、たぶんこの世で一番尊敬してる。
ただ、今ここにいる兄は、俺の知ってる兄ではなかった。
イケメンだった兄の顔は、まるで別人のようになっていた。
よだれを垂らし、目はあさっての方向を向いて、狂ったように『亥の子唄』を歌っている。
(『亥の子唄』ってのは、地方民謡?というか、『亥の子祭り』って行事のときに歌う歌です)

俺はなにが起こってるのか分からず呆然とした。
トーチャンに問い詰めると、どうやら俺が大阪に出てしばらくして兄は事故ったらしい。
その後遺症でこうなったとか。
その後兄は離婚し、実家が引き取り、今に至るそうだ。

両親は俺に、兄がこうなってしまったのを知らせたくなかったらしい。
カーチャンは「ごめんね、ごめんね…」って泣いてた。トーチャンは黙って俯いてた。
俺はその日1日、頭が真っ白というか、何も考えられない、現実を受け入れられない状態だった。

夜になっても全く寝付けずボーっとしていると、ガラガラと玄関を開ける音が聞こえた。
時間は真夜中の2時。こんな時間になんだと思い見てみると、兄が外に出ていた。
俺は慌てて兄を追いかけた。

すると兄は、田んぼにズカズカと入り込むと、昼間のようにまた狂ったように歌いだした。
「いのーこ いのーこ いのーこさんのよるは
いーのこもちついて いわわんものは おにやじゃや つののはえたこうめ~」
俺はそのとき初めて、『ああ、兄は本当に狂ってしまったんだな』と実感し泣いた。

そしてすぐに、両親に兄が田で暴れてると報告した。
しかし、俺の焦りとは裏腹に両親は冷静だった。
「大丈夫、ほっといても大丈夫やから」
俺は耐え切れず、泣きながら兄を無理やり家に連れ戻した。

翌朝、両親に聞くと、どうやら兄はほぼ毎日家を抜け出してるらしいが、
ほっといても翌朝にはきちんと帰っているそうだ。
事実、俺が滞在した間、毎日夜になると抜け出し、朝には戻っていた。

そして瞬く間に時間は過ぎ、いよいよ休みも終わりに近づき、俺は帰ることになった。
兄のこれからのことを父に聞くと、
「○○(兄)のことは心配いらん。そのうち帰るときが来る」
「えっ?」
意味が分からなかった。今でもその意味は分からない。

帰るもなにも兄はそこにいるじゃん。
何を聞いても、父はそれ以上口を開こうとしなかった。
そして、そのときの父の顔をみて背筋が凍った。

薄っすら笑っている。
それによく聞くと、「ヒ、ヒヒヒ」という、しゃくりあげるような笑い声が口から漏れている。
母も同様に笑ってる。
兄は後ろで相変わらず歌い続けている。
その様子があまりに異様で、俺は耐えられなかった。

「また時間が取れたらくるから」と言い、足早にその場を去った。
薄情かもしれんが、本音を言うと、二度と実家には戻りたくない。

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